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歩くんですの箱 SS置き場

躍動感を表現するにはどうすればいいんだろう……と日々考え中。

【ラブライブSS】5年前のできごと (Part09:最終話)

Part09:最終話 (Part08の続きです)
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【とある休日】

絵里「こうして3人で集まるのは何年ぶりかしら?」

希「もう5年ぶりやね。誰かさんが行方不明やったからなぁ」

にこ「心配かけたわね」

絵里「本当よ」

希「穂乃果ちゃん、記憶が戻らないままなんやって?」

にこ「そうみたいね。あの子の中では、雪穂を含め家族のことも、私達とμ’sで過ごしたことも、何もかも全部無かったことになってる」

絵里「自分の名前さえも分からない状態になってたらしいわね」

希「どんなに辛いことがあったとしても、全部無かったことになっちゃうなんてあんまりや。いつかはまた思い出してくれるんかなぁ」

にこ「どうかしら?思い出さない方が本人にとっても幸せかもね。何も知らないまま、まっさらな状態からやり直せるなら、その方があの子は幸せなんじゃないかしら」

絵里「でも、そんなの穂乃果であって穂乃果じゃないわ」

にこ「そう言いたい気持ちは分かる。でも、それは私達の身勝手よ」

絵里「身勝手?」

にこ「μ’sのリーダーだった、私達と過ごした穂乃果こそが本当の穂乃果だなんて……私たちが知っている穂乃果こそ本物だなんて言うのはただの押し付けに過ぎないわ。あの子がどういう人間なのかは、あの子自身が決めるべきことで、私達がどうこう言うことじゃない」

希「それって、あんまりやない?だって、ウチらが一緒に過ごした時間が全部否定されるんやで。ウチらと穂乃果ちゃんは、一緒にいることでお互いに成長してきたんや。それもウチらの思い込みやって言われたらそれまでやけど……」

絵里「希の言いたいこと、すごく良く分かる。私達が穂乃果に影響されたように、私達も穂乃果という人間のあり方に影響を与えたはずよ。そんな私達が、私達の知っている穂乃果を取り戻したいって思うのはそんなにいけないことなのかしら?」

にこ「絵里の言うことが事実だとしても、今の穂乃果には関係ないことよ。全ての記憶を失い、まっさらになった穂乃果に通じる理屈じゃない」

希「結局、ウチらはみんな一人ぼっちなんやなぁ」

にこ「そうね。本当の意味で相手を知ることなんて出来ない。勝手に憶測して、想像して、そんな思い込みの中で生きるしかない。人間ってのは、そういうものなのよ。なんとなくは気付いていたけど、この5年間でそれを嫌というほど思い知ったわ」

にこ「ただ、さっきはああ言ったけれど、やっぱり穂乃果は記憶を取り戻さなきゃいけないんだと思う」

絵里「どういうこと?」

にこ「……そっか、まだあなた達には言ってなかったわね。穂乃果は、ことりを殺したのよ。だから、否応なくその罪を背負い続けなきゃいけないわ」

 ***

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にこ(雪穂の死体を見つけ、そして携帯を拾い上げたのは本当に偶然だった)

にこ(でも、その携帯から穂乃果に電話をかけ、携帯を持ち去り、ことりのカバンに入れたのは、ここあが言う通り意図的な行為だった)

にこ(けれど、それは決して誰にも言えない。こころや、ここあにさえも)

にこ(いや、むしろその二人には一番知られたくなかった)

にこ(こころやここあだって決して知りたくはなかっただろう)

にこ(でも、ここあは暴いてしまった)

ここあ「姉ちゃんは、ウチらにとって本当に良い『姉』だよ」

ここあ「ずっと、そういう風に振る舞おうとし続けた」

ここあ「有名アイドルの写真に自分の顔写真を貼り付けたポスターなんて、小さい頃は本気で騙されてたよ」

にこ「今思い出すと黒歴史よ……」

ここあ「ウチらの前では、『スターアイドルとして活躍してる立派な姉』を演じたかった。その気持ちは本来はとっても純粋で、尊いものかも知れない。でもね、ウチらが求めてたのはそういうことじゃないんだよ」

にこ「分からないわ。アイドルはみんなの憧れとして活躍すべきだし、姉は妹にとって憧れの存在であるべきじゃないの?」

ここあ「そうじゃない。姉ちゃんはただ、ウチらの姉ちゃんでいてくれれば良かったんだ。大スターじゃなくても、理想的な姉とは違っても、それでもウチらにとってはたった一人の姉ちゃんなんだ」

にこ「血で繋がっているから、って意味?」

ここあ「家族の絆なんて、それがすべてじゃないか。アイドルはこうであるべきだ、姉とはこうであるべきだ。そういうのは、アイドルとか姉に世間が求める機能に過ぎない。でも、人と人との関わりってのはそういうものじゃないんだ。ウチらは、姉ちゃんに『姉としての機能を果たす存在』であって欲しいなんて思ってないんだよ」

にこ「ここあ。あなたが何を言いたいのか、あなたがどうしてそういうことを言うのか、私には全然分からないわ」

ここあ「知ってるよ。姉ちゃんにそういう感覚が理解できないこと。だからでしょ?穂乃果とことりの絆を引き裂こうとしたのは」

にこ「……どうして分かるのよ?」

ここあ「姉ちゃんがどうして雪穂の携帯から穂乃果に電話をかけたのか。どうして、ことりのカバンの中に死んだ雪穂の携帯を入れたのか。その理由を考えてみたんだ」

ここあ「あれは、穂乃果に『ことりが雪穂を殺したんだ』って思い込ませるためじゃないのか?」

にこ「っ……」

ここあ「幼馴染の絆なんて、形あるものを前には一瞬で崩れる程度の無価値なものだって言いたかった。違う?」

にこ「……その通りよ。ここあは、何でもお見通しなのね」

ここあ「一つ聞いてもいい?」

にこ「……ここまで来たら、なんでも聞いてくれていいわ」

ここあ「じゃあ聞くよ。姉ちゃんは、μ’sでアイドル活動をやっていたとき、仲間との絆を感じたことはあった?」

にこ「そりゃいくらでもあったわよ。みんなで一生懸命ライブを目指して練習して、衣装や振付を考えて……それで、ラブライブで優勝して。今はもうみんなバラバラになってしまったけど、あの頃は本当にみんなで一つのものを作ってるっていう充実感があった」

ここあ「質問を変えるよ。バラバラになってしまったみんな――アイドルを辞めて、『過去に一緒にスクールアイドルをやっていた普通の人間』になった今のみんなは、姉ちゃんにとって価値のある存在か?」

にこ「それは……」

ここあ「そういうことなんだよ。姉ちゃんは、相手にいつもその人間関係にふさわしい『機能』を求める。そして、その『機能』を相手の中に見出せたときにしかその人との絆というものを感じることが出来ないんだ。例えば、μ’sであれば、一緒にアイドル活動をやっている仲間だから、そのアイドル活動をやっている時しか彼らとの絆を感じられない。同じ体験を共有する仲間というだけで無条件で分かりあえる関係というのが、姉ちゃんには理解できないんだろ?」

にこ「どうしてそんな言い方するの……仕方ないじゃない!分からないものは分からないのよ!」

ここあ「分からなくたっていい。それを悪いことだとも言わない。でも、少なくとも姉ちゃんは自覚すべきだ。間接的とはいえ、姉ちゃんがやったことが原因でことりは死んでしまったんだから」

にこ「それは……。まさか……あんなことになるなんて思わなかった……」

ここあ「アイドル活動の前に、穂乃果、ことり、海未は幼馴染という絆で繋がっていた。たまたま生まれた時から近くで育ってきたというだけなのに、どうしてあんなにお互いを信頼し合えるのかが、姉ちゃんには分からなかった」

ここあ「そして、姉ちゃんはその絆を引き裂くことで、証明してしまったんだ。その信頼というのが、実は願望めいた思い込みに過ぎなかったってことを」

ここあ「姉ちゃんの狙い通り、穂乃果はことりが雪穂を殺したんだと思い込み、そして穂乃果は復讐のためにことりを殺した」

ここあ「姉ちゃんの簡単な仕掛けで、強固に見えたことりと穂乃果の絆はあんなにもずたずたに引き裂かれた」

にこ「……当時の私は、一人で細々アイドルを目指してて、全然上手くいかなくて、相当に参っていた。そうじゃなきゃ、きっとあんなことはしなかった。今となっては、反省してもしきれないわ。だけどね、一つだけ言わせてほしい」

ここあ「なにかな?」

にこ「あんなくだらない仕掛けだけで、穂乃果はことりが雪穂を殺したんだと思い込んだ。『幼馴染だから、ずっと一緒だったから。だから、私はあなたと心から繋がってる』そんなの、ただの幻想じゃない!あの事件で、それが証明されたのよ!」

ここあ「そうだね、姉ちゃんは正しい。人間は本質的にはいつも一人で、本当の意味で分かりあうことなんて決してできない。それは論理的帰結として絶対的な真実だよ。でも、人間はそんなに強くない。甘い幻想を、願望を認めることだって必要なんじゃないのか?」

にこ「くだらないわ、そんなのただの甘えよ」

ここあ「少し手ぬるい言い方だったかな。じゃあ言い換えよう。真実だけを叫ぶのは、実用上まったく無意味な行為だよ、姉ちゃん」

にこ「どういう意味?現実から目を背けて、自分の都合の良いことだけ見てるのが正しいとでも言いたいの?」

ここあ「じゃあ、考えてみて。例えば、あたしや姉ちゃんが今しゃべっている言葉が、実はまったく違っているのだとしたら?会話が成立していると思っているのは、相手の発する音が自分が喋ってる言葉とたまたま似ているだけで、実は互いに会話なんかまったく通じてない。そういう可能性がゼロだって言い切れる?」

にこ「そんなことを考えて、何になるのよ」

ここあ「そういうことだよ。今姉ちゃんが言ったことがすべてだ。まったく違う言葉がたまたま一致しているかのように感じるなんて、確率でいえばほとんど有り得ない話だけど、逆にいえば同じだと断定することなんて出来ない。みんな、最初は言葉を知らない状態で生まれてきて、親や家族の見よう見まねで言葉を覚えていく。その過程を考えたら、むしろ一人一人の言葉が一致し、通じ合う方が奇跡だ。けれど、誰もそんなことは気にしない。気にしても仕方ないからだ。厳密な思考に基づいて導かれた真実であることと、この世界を生きる上で大切な事柄であるかどうかってのは、必ずしも一致するわけじゃないんだよ」

ここあ「例えば、人と人とのつながり、相手と言葉で意思疎通できること。そういった現象は疑似的ではあっても確かに存在する。生きていく上で大切なのは、そういう実用的な議論じゃないのか」

にこ「直感を排除して、きちんと論理的に考えて、その結果得られた真実が大切じゃないなんて……そんなのあんまりよ、虚しすぎる!」

ここあ「相手を本当の意味で理解することは出来なくても、お互いを理解し合っていると思い込むこと。言葉で相手と通じ合えているのだと信じること。――そういう非論理的な行動の中に真実なんてどこにもない。けれど、そうやって相手と分かりあっていると信じるのが人間の『優しさ』なんだって思う。私達は、真実の中で生きるには弱すぎるんだ」

にこ「優しさなんて言うと聞こえがいいけど、ただの傷のなめ合いじゃない」

ここあ「だったら、姉ちゃんは『優しさ』を決して求めない?そんなはずはないよ」

にこ「どういう意味?」

ここあ「穂乃果に捉えられた時、姉ちゃんはやむを得ず雪穂を演じ続けたって言ってたよね」

にこ「そりゃそうよ。他にどうしようもなかったわ」

ここあ「いいや、その気になればいつでも逃げだせたはずだよ。穂乃果は、昼間は仕事で家を空けていた。その隙に警察に駆け込めば良かった。どうしてそうしなかった?」

にこ「……思いつかなかっただけよ」

ここあ「違うね。姉ちゃんは、あえてその選択肢を採らなかったんだ」

にこ「そんな訳ないじゃない!」

ここあ「姉ちゃんは、相手との関係にふさわしい『機能』を求める。それはすなわち、自分自身にもあるべき『機能』を求め続けるということだ。例えば、ウチらの前では辞書で引けば出てくるような『立派な姉』であろうとする。でも、自分自身が要求する『機能』を自分で実現しようとすることに終始する限り、姉ちゃんは自分自身を認めてくれる他者の存在を認識することはない。姉ちゃんから見れば、自分を認めてくれる存在は自分以外にいないんだ」

にこ「他の人が本当は自分のことをどう思っているかなんて決して分からないんだから、自分を認めてくれる存在が自分しかいないなんて当たり前のことじゃない」

ここあ「その通りだ。だけど、ほとんどの人間はその孤独な現実には耐えられないし、それは姉ちゃんも例外じゃなかった。アイドル活動が上手くいかず、それでも誰にも甘えることが出来なかった姉ちゃんは、疲れてしまったんだ。自分の代わりに自分を認めてくれる存在が欲しかった。そんなとき、姉ちゃんは穂乃果に出会った」

ここあ「その頃の穂乃果はもはや壊れていた。姉ちゃんのことを妹の雪穂だと勘違いし、自宅に軟禁した。でも、裏を返せば穂乃果は姉ちゃんの存在を無条件で認めてくれたってことだ。ゆがんだ形ではあるけれど、それでも穂乃果の気持ちが『優しさ』だったことには変わりない。姉ちゃんは、その『優しさ』に救われたんだ。自分が『雪穂』を演じ続ける限り、穂乃果が自分を認め続けてくれる。だから、姉ちゃんは『雪穂』であり続けることを選んだんだよ」

にこ「参った。なにもかも見抜かれるなんてね……」

ここあ「今まで、姉ちゃんは『優しさ』を理解できなかったんだと思う。でもね、今の姉ちゃんは『優しさ』を知ってしまった」

ここあ「だから、これから姉ちゃんが真実に生き続けようと思うなら、自分から『優しさ』を拒む選択肢を選び続けなきゃいけない。それはきっととても苦しいよ。それでも、姉ちゃんはそういう選択をし続けるつもり?」

にこ「ええ。だって、『優しさ』はとてつもなく歪んでる。絶対に、あんな間違いを繰り返してはいけないのよ」

ここあ「姉ちゃんの受けた『優しさ』は極端な例だ」

にこ「そんなの程度の差でしかない。多かれ少なかれ、相手と繋がっていると思い込むこと自体が真実を曲げている以上、歪んでることに変わりはないわ」

ここあ「そっか……。やっぱり、姉ちゃんとあたしは違うんだな。あたしには、姉ちゃんの気持ちは分からないよ」

にこ「ほらね、姉妹の間ですら相手のことなんて何も分からない。でもね、そんな当たり前のことに雪穂はきっと絶望してしまったのよ」

ここあ「雪穂が自殺したのって、そういう理由?」

にこ「もちろん憶測でしかないけどね。これは誰にも言ってなかったことなんだけど、実は雪穂は死んだときにメッセージを残していたのよ」

ここあ「それは、どんなものなんだ?」

にこ「雪穂の死体の近くに転がっていた携帯電話を拾って開けてみたら、まずパスコードの入力を要求された。もちろんそんなの分からないから、ためしに自分の名前を入力してみたの。“83025”って」

にこ「そしたらロックを解除することが出来た。それで気付いたわ。雪穂は私に何かを託そうとしているんだってことに」

ここあ「へぇ、雪穂がそんな仕掛けを……。他に何かメッセージは残してたのか?」

にこ「そう思ってメールとかメモとかを探してみたんだけど、何も見つからなかったわ。それで、途方に暮れてしばらく携帯をいじってたら、雪穂が送信したメール履歴の画面が少しおかしいことに気づいたのよ」

ここあ「おかしい?どういう風に?」

にこ「雪穂は、送るメール全部にタイトルを付けていた。普通は、友達同士のメールのやり取りだとわざわざタイトルなんかつけないで無題で送るじゃない?だから、少し奇妙だなーと思ったのよ」

ここあ「でも、几帳面にタイトルを付ける習慣をつけてる人がいてもそこまで不思議じゃないんじゃないの?」

にこ「そうね、でもね、奇妙な点は他にもあった。同じ相手と連続でやりとりしたメールでもRe:の後ろのタイトルが変えてあったのよ。それに、過去のメールにさかのぼってみてみたら、ある時より以前に送られたメールにはタイトルなんて付いていなかった」

ここあ「直近に送ったメールにだけタイトルが付いてたってことか」

にこ「そう。それで、しばらく眺めてたら気付いたわ。タイトルの一番最初の文字を順番に縦読みしてみると、一つのメッセージになってるんだってことに」

ここあ「なんて書かれてたんだ?」

にこ「『コロサレタコトニシテ』」

 ***

ここあ(亜里沙が言っていた。雪穂はとても頭が良かったと)

ここあ(そんな雪穂が、考えに考えてその果てに結論に至ったのだろう)

ここあ(『人間は本質的にはいつも一人で、本当の意味で分かりあうことなんて決してできない』という真実に)

ここあ(そして、それを覆い隠す姉の、その幼馴染たちの、スクールアイドルの仲間たちの、それどころか、世界中にありふれている絆という名の欺瞞に)

ここあ(雪穂はなぜあの場所で死んだのか。なぜ携帯電話を目立つ位置に置いておいたのか)

ここあ(雪穂は、すべてを計画していたのだ)

ここあ(姉ちゃんは、毎週同じ日の同じ時間にスーパーまで買い物に行き、その時必ずあの廃屋の裏の庭を通る)

ここあ(あそこはほとんど知られていない場所なので、人通りはほとんどない)

ここあ(雪穂は、姉ちゃんが買い物に行くタイミングを知っていて、その時を狙って自殺を図った)

ここあ(そして、姉ちゃんが手に取ってくれるような位置に携帯を置き、その携帯にメッセージを残すことで姉ちゃんに行動を起こさせようとした)

ここあ(それが火種となって、かつてμ’sであったという絆で結ばれた者たちの間に『すれ違い』を起こすことが目的だ)

ここあ(どうして雪穂は姉ちゃんを選んだのか)

ここあ(それは、姉ちゃんが『真実に気づいている人』だったからだ)

 ***

ここあ(姉ちゃんは、人と人とが絆で結ばれる感覚を決して理解できなかった)

ここあ(だから、私達姉妹にも弱みを見せようとせず、ただ自分のカッコいい面だけを見せようとした)

ここあ(私達と悩みを共有しようとは決してしなかった。それは、幼いウチらへの思いやりと捉えることも出来るけど、姉ちゃんに関しては今となってはそれだけじゃないって言いきれる。ウチらの『姉』だから、辞書に書かれるような『姉』として振る舞おうとしただけだ。姉ちゃんが他者と関わろうとするときは、常にそうだ。必ず姉ちゃん自身が持っている辞書通りに振る舞おうとする。『部活の仲間』『頼れる先輩』『アイドル』。姉ちゃんは、他者と関わる方法をそういうやり方以外に持ち合わせていない)

ここあ(それは、姉ちゃんが高1のときにやっていたアイドル活動の時も、μ’sの活動ですらも変わらなかったんだろう)

ここあ(スクールアイドルをやっていた時、姉ちゃんの目的が達成された時(例えばラブライブで優勝したとき)は、確かに仲間と心を共有するような感覚に浸れただろう。でもそれは、現実が姉ちゃんにとっての理想のアイドル像に一致したからに過ぎない。そういう主観的感覚の構造をみれば、実のところ周りの仲間が本当のところ何を思っているかなど無関係であり、あくまで自分自身の中だけで自己完結している)

ここあ(姉ちゃんは、心の奥底でその事実を絶えず噛みしめていた。それゆえ、アイドル活動以外の面で、純粋な仲間としてのμ’sのみんなとの絆みたいなものを感じる機会は決してなかったはずだ)

ここあ(だからこそ、例えば姉ちゃんには穂乃果、ことり、海未のような関係が理解できなかった)

 ***

ここあ(雪穂も同じだった)

ここあ(そして、雪穂は誰よりも早くその正体を『いつも一緒にいるから』『たくさんの月日を共有してきたから』相手と繋がっているんだと思いたいという願望が形になった結果の欺瞞だと気付いた)

ここあ(けれど、おそらく姉ちゃんの考えは一つだけ間違っている。雪穂は、その事実に絶望なんかしていない)

ここあ(絶望のあまり自殺したのなら、なぜあんなに周到な準備をして、真実を暴く役割を姉ちゃんに託したのか)

ここあ(再び、心の中を冷たい風が通り過ぎていった)

ここあ(恐るべきことだった。雪穂の自殺は、耐え難い苦痛や絶望からの逃避なんじゃなかった)

ここあ(雪穂にとって、自殺は自己表現の一つだったのだ)

ここあ(自分の命と引き換えに絆という名の欺瞞を暴く)

ここあ(彼女はすべてをそのためだけに捧げた)

ここあ(そして、その計画は見事に功を奏した。姉ちゃんは、雪穂の思惑通りに動いたわけだ)

ここあ(その結果、穂乃果は雪穂の自殺を他殺だと誤解した)

ここあ(穂乃果は、ことりが雪穂を殺したんだと思い込み、ことりを殺害して、しかもその事実を忘れてことりのことを恨み続けた)

ここあ(失踪した姉ちゃんは穂乃果の自宅に軟禁され、雪穂として生きることを強要された)

ここあ(海未は、あたしの姉ちゃんが雪穂を殺したんだと思い込み、そして恨み続けた)

ここあ(凛は、きっと一番真実に近いところにいたけれど、穂乃果がことりの死を悲しんでいると思い込むことで自分自身をごまかし続けていた)

ここあ(何もかもがすれ違い、誤解を生み、穂乃果とことりの間にあった絆はあっさりと打ち砕かれ、そして取り返しのつかない悲劇を生んだ)

ここあ(すべてが、雪穂のねらい通りに進んでいった)

 ***

ここあ(純粋な真実に魅せられた雪穂の心は、きっととても美しい)

ここあ(それは、姉ちゃんについても同じことだ)

ここあ(でも、あたしにはその美しい心が分からない)

ここあ(悲劇しか生まない真実のために命すら投げ打つほどの強靭な意志がどこから湧いてくるのか)

ここあ(あたしにはどうしても分からない)

ここあ(あたしと雪穂では、根っこの部分が最初から違っている)

ここあ(でも、それも人が分かりあうことが出来ないことの一例に過ぎないのだろう)

ここあ(一つだけわかるのは、雪穂は自分の気持ちを誰かに分かって欲しかったわけじゃないってことだ)

ここあ(彼女はただ、真実を突きつけるための手段として最も適した方法を選んだに過ぎない)

 ***

ここあ(いつか、どこかで聞いたことがある)

ここあ(フランという犬の話。昔、あたしの家の近くで飼われていたという犬の話)

ここあ(フランの名前の由来は、フランシウムという放射性元素だそうだ)

ここあ(半減期が22分と短く、強い放射線を出してあっという間に崩壊して無くなってしまう)

ここあ(短い命を力強く生きてほしい、そういう願いを込めて名付けられたという)

ここあ(そんなことを思い出していたら、そういうことか、と思い至った)

ここあ(雪穂は、ただその純粋な心で真実だけを追い求めた)

ここあ(それが生きていく上での障害になるかどうかなど、彼女にとってはどうでもいい問題だったのだ)

ここあ(それが論理的に導かれる純粋な真実であるということだけが重要だった)

ここあ(例えそれが、自らの生を脅かすような真実であったとしても構わず突き進む)

ここあ(ちょうど、放射性元素が自らの崩壊に向かって強いエネルギーを放つように

ここあ(あたしは思う)

ここあ(雪穂の生き様こそ、まさにフランシウムだったのではないかと)

おわり

最後までお読みいただきありがとうございました。

冒頭から出てくる「雪穂」の正体が実は「にこ」だったというのは、雪穂のセリフとモノローグの口調が違う点や、Part01で高校時代は裁縫に興味がなかったと明かしていることが一応伏線だったのですが、気づいた方はかなりすごいと思います。

ちなみに、裁縫に興味がなかったというエピソードは、アニメ2期のワンシーンでにこが衣装作りを手伝わされる場面で愚痴を言っているシーンから類推したものです。あの場面は、米国のドラマをパクったのではないかと疑われ話題になりましたね(笑)

最後に、本SSはバッドエンドにも見えるかも知れません。しかし、真の主人公が雪穂だったのだという立場に立てば、実はハッピーエンドなのではないかと思えてきませんか?

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