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歩くんですの箱 SS置き場

躍動感を表現するにはどうすればいいんだろう……と日々考え中。

【ラブライブSS】花陽「スワンプマン」 第四章

第四章 (第三章の続きです)


病室で意識を取り戻したわたしは、ひたすら泣き続けた。
とても大切だった、たった一人の友達。
ずっとわたしを支えてくれた。
なのに、凛ちゃんはわたしの目の前で死んだ。
雷に打たれて。
どうして凛ちゃんがこんな目に遭わなければならないの?

隣にいたわたしは無事だったのに。
どうせなら、凛ちゃんじゃなくてわたしの方に雷が落ちてくれれば良かった。
弱いわたしには、凛ちゃんがいない世界で生きていくことなんてできない。
あの時、わたしは凛ちゃんのすぐ横にいたのに、凛ちゃんを助けることさえできなかった。
本当に死ぬべきだったのは、こんなダメダメなわたしだ……。

ひとしきり泣いて、わたしは凛ちゃんの死を、その傷を心に深く刻み込んだ。




「一緒にいながら、どうして助けられなかったんだ」

開口一番、担任の先生は軽蔑したような目でわたしを見つめた。

「星空も星空だ。勝手にほっつき歩くからこんなことになる。さすが、類は友を呼ぶってやつかね。星空も星空なら、お前もお前だよ」

ったく、お前らのせいで責任取らされるのは学校側なんだよ、勘弁してくれ、と捨て台詞を残し、先生はわたしの前から立ち去った。

わたしは、クラスでたった一人孤立するようになった。
考えてみれば、これまで凛ちゃん以外にまともに話せる友達なんていなかったんだから当然だけど、それだけじゃないみたい。

「友達を見殺しにするなんて最低だね」

そんな風に言われることも少なくなかった。

しばらくするとみんなも飽きてきたのか、いちいちわたしに構う人はほとんどいなくなった。
でも、雨の日のたびに体調を崩し、学校を休むようになってからは、みんなはそのことでわたしを詰るようになった。

ダメダメなわたしを、みんなが責め立てる。
でも、しょうがないことだって思ってた。
だって、わたしは凛ちゃんを助けることができなかった。
それどころか、凛ちゃんの死が原因で雨の日に外に出ることすらできなくなってしまった。
そんな、弱くてダメダメな人間なのだから。

だけど、心の奥底では、別の感情が膨らんでいた。
許せない。
わたしたちのことを何も知らないで、無責任に誹謗中傷するクラスのみんなや学校の先生のことが許せない。

心の中を巣食っていく新たな感情。
それがやがてわたしに気付かせてくれた。

この世界でただ一人、わたしだけが正しいのだと。




この世界が正しくないのなら、本来の正しさとはどこにあるんだろう?
真実に気が付いたわたしは、正しさのありかを追い求めるようになった。

その中で、わたしはイデア論という一つの結論に行き着いた。
イデア論は、古代ギリシアの哲学者プラトンが提唱した説で、わたしたちの魂はもともとイデア界にあったという考え方だ。
イデア界とは、真実だけが存在する世界。
例えば、三角形は同一直線上にない面積0の3点と、それらの点を面積0で少しも曲がっていない線分で結んできた図形のことだ。
でも、この世界にそんな定義通りの三角形は存在しない。
存在しないのに、確かにわたしたちは定義通りの三角形を思い浮かべることができる。
そうやって思い浮かべた三角形こそが三角形の真実の姿であり、それをプラトンは三角形のイデアと呼んだ。
そういった、あらゆるものの真実の姿、すなわちイデアは、この世界ではなくイデア界にある。

そして、この世界はそんなイデア界の模造品、偽物に過ぎない。
あらゆるものはただのイデアの模造品に過ぎなくて、ただの偽造コピーだ。
その偽物をみんなは本物だと思い込んでいる。
でも、本当は誰でもイデアの知識を持っているはずなのだ。
なぜなら、もともと魂はイデア界にあったものなのだから。
目の前にある偽物を見て、自分が持っているイデアの知識を呼び起こすことで対象を認識する、凸凹の紙の上に鉛筆で書かれた偽物の三角形を三角形だと思い込んでいる。

真実がイデア界にしかないのなら、わたしたちはイデアを追い求め、忘れてしまった正しい知識を取り戻さなくちゃいけない。
それは、プラトンの師匠であるソクラテスが提唱した「無知の知」の実践でもあり、その情熱は知識への愛に他ならない。
そうした、イデアを追い求めるただならぬ情動こそが、プラトンがエロスと呼んだ愛なんだ。
本来エロスには性愛という意味もあるけれど、わたしはそういう意味でこの言葉が使われるのが許せない。
そんな低俗な欲望が、イデアを志向する、どこまでも美しいプラトンのエロスを汚しているように思えるから。

魂をイデア界に回帰させるために、そして善のイデアにたどり着くために、わたしは少しでも正しいもの、美しいものに似たものを探し求めた。
引き出しの中、箪笥の隙間、本屋さんで売ってる本の中、ネットの海に転がる情報の欠片、車が行き交う交差点の隅、新聞やニュース、駅中に新しくオープンしたお店の商品棚……、あらゆるところを目を皿のようにして見つめて、イデアの知識を得ようとした。

第五章へ続く

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