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歩くんですの箱 SS置き場

躍動感を表現するにはどうすればいいんだろう……と日々考え中。

【ラブライブSS】花陽「スワンプマン」 第二章

第二章 (第一章の続きです)


「ねえ、ないてるの?」

すぐそばで声がした。
顔を上げると、一人の少女が心配そうにわたしの顔を覗き込んでいた。
急に声をかけられたことに驚いて、わたしはとっさに首を左右に振ったけど、泣き腫らして目を真っ赤にした状態で否定したって何の説得力もない。
少女もやはり、わたしの顔を見てわたしが今まで泣いていたことを確信したようだった。

「どうしたの?」

とその少女は訊いてきた。

「あ、あの……」

とっさに口ごもってしまうわたしをよそに、少女はわたしが泣いている原因に気づいたようだった。
とてとてと駆け寄ってきて、わたしの膝に顔を近づけて言った。

「ころんだの?すごくいたそうだよ?」

少女の質問に対して、わたしは初めて肯定した。

ドジだったわたしは、転んでひざをすりむいてしまうことが多くて、その度に泣いていた。
その時も、わたしは幼稚園の庭から建物の中に戻ろうとして、コンクリートの舗装面との境界にあるわずかな段差に躓いて転び、ひざをすりむいてしまったのだ。

「いたいのいたいのとんでけ~」

少女は、わたしのひざをさすりながら、すごく真剣な眼差しで繰り返しその言葉を唱えた。
そんなことをしたって意味がないことくらい幼稚園児のわたしでも分かっていたけれど、その少女が一生懸命わたしの傷を癒そうとしているところを見ていると、不思議と痛みが和らいでいくような気がした。

「ありがとう。もうだいじょーぶだよ」

わたしは少女にそう言った。
いつの間にか、わたしの顔には笑みがこぼれていた。
その笑みを見て、少女は安心したように笑った。

天使が舞い降りてきたかのような、無垢で可愛らしい笑顔だった。

それが、わたしと星空凛との出会いだった。

その日以来、わたしはいつも彼女と一緒にいた。
凛ちゃん、凛ちゃん、って呼んで、懐いていた。
凛ちゃんはわたしに『かよちん』というあだ名をくれた。
わたしをそんな風に親しげに呼んでくれた子は初めてで、わたしはすごく嬉しかった。

凛ちゃんはわたしとは逆で、とっても元気で、明るい子だった。
いつもわたしの手を引っ張って、いろんなところに連れて行ってくれた。
毎日がすごく楽しくて、また次の日会うのが待ち遠しくて仕方なかった。

一人ぼっちだったわたしにできた、たった一人の大切な友達……それが凛ちゃんだった。

でも『あの日』、凛ちゃんは死んでしまった。
10才の時のことだった。




幼稚園のときはドジで転んでばっかりだったわたしだけど、それは小学校に上がってもあまり変わらなかった。

ある日の体育の授業で、大なわとびをやった。
一定のリズムで軽快に回るなわを、クラスのみんなはとんとんとリズムよく跳んでいった。
なのに、わたしだけどうしてもそのリズムに乗れなくて、いつまでも跳ぶことができなかった。

「おい小泉、なにやってんだ。跳んでないのおまえだけだぞ」

先生は厳しい口調でわたしを注意した。

「ごっ、ごめんなさい……」

わたしは恐る恐るなわに近づいた。
けれど、やっぱり跳ぶことは出来なかった。
どうしてもタイミングがつかめなくて、わたしの足がなわに引っかかる未来しか想像が出来なくて、でも跳ばなきゃいけない……。
頭がぐちゃぐちゃになって、今にも叫びたくなるくらい、体の奥から悲鳴が込み上げてきて、でもその悲鳴は喉の奥でせき止められて声にはならなかった。

そのとき

「かよちん。それっ」

わたしの腕がぎゅっと握られた。
腕の先から凛ちゃんの熱が伝わってきたけど、そのぬくもりを味わうほどの余裕はなかった。
あっけにとられているうちに、わたしはそのまま腕を引っ張られて……。

ふわり。

次の瞬間、わたしはなわとびを跳んでいた。
自分でも何が起きたのか一瞬わからなかった。

「ほら!意外と簡単に飛べるでしょ?」

凛ちゃんは満面の笑みを浮かべた。

不思議な感覚だった。
自分がなわを跳んだという事実。
実感が湧かなかった。
でも確かに、腕に凛ちゃんの手のぬくもりが残っていた。
だから、わたしは今起こったことが現実での出来事なのだと信じることができた。




凛ちゃんは、とても元気で活発で、髪の短い中性的な容姿の女の子だった。
そんな凛ちゃんが、ある日スカートを履いて来た。
いつもの雰囲気からすると意外性のある格好だったけど、スカート姿の凛ちゃんはとっても女の子らしくて可愛かった。

「わあ、凛ちゃん、すっごくかわいいね!」

「そ、そうかな……」

わたしが褒めると、凛ちゃんは頬を少し桜色に上気させて笑った。

けれど、ほかのクラスメイトたちは凛ちゃんのスカート姿を可愛いとは思わなかったみたい。
いや、むしろ逆だったのかな。
普段とのギャップがあまりに大きくて、それだけに可愛さが際立っていたから……。
クラスメイトたちは、口々に凛ちゃんをからかった。

「似合わないねー」

「いきなりスカートなんか履いちゃって、男女のくせに」

「身の程を弁えろよブス」

そんな言葉を、次々と浴びせかけた。

凛ちゃんがスカートを履いて学校に来たのは、その日が初めてだった。
いったい、どんな思いでスカートを選んだんだろう。
不安だったに違いない。
似合わないって言われたらどうしようって思ったに違いない。
それでも勇気を出して……凛ちゃんはスカートを履くことを選んだ。

クラスの人たちはそんな凛ちゃんの心を踏みにじって嘲笑った。
その日のうちには、星空凛がスカートを履いて来たという噂は学年全体に広がり、他のクラスの人たちまでもが凛ちゃんにひどい言葉を口々に投げつけた。

あの日、凛ちゃんがどんな顔をしていたかわたしは忘れない。
辛くて泣いていた?悔しそうに、あるいは悲しそうな顔をしていた?
ううん、そのどれでもない。
凛ちゃんは笑っていたんだ。
心の深くに大きな傷を抱えながら。
その傷から溢れる血を流し続けながら。

「えへへ、やっぱり凛には似合わないよねっ」

笑って、そう言った。

それ以来、凛ちゃんがスカート姿を人前に見せることは二度となかった。
でも、人の記憶は決して消し去ることのできるものじゃなくて……クラスメイトは、しばらくスカート姿のことで凛ちゃんを弄り続けた。

第三章へ続く

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