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歩くんですの箱 SS置き場

躍動感を表現するにはどうすればいいんだろう……と日々考え中。

【ラブライブSS】花陽「スワンプマン」 第三章

第3章 (第2章の続きです)


小学5年生の夏休み前に、林間学校でわたしたちは長野県の山間に泊まることになった。
林間学校っていうのは、小学校の学校行事のひとつとして行われる修学旅行みたいなもので、二泊三日の日程で班ごとに山歩きなどをすることになっていた。

わたしは凛ちゃんと同じ班になることができたから、林間学校をちょっとだけ楽しみにしていた。
初日は学年全員でいくつかの観光名所を歩き回ってから、バスで宿まで移動した。

宿の部屋も班ごとだった。
わたしは、ずっと凛ちゃんと一緒にいた。

二日目。
この日の活動は、班ごとにオリエンテーリングを行いながら、高原を一周するというものだった。
歩くコースの途中にチェックポイントがいくつかあって、それぞれのチェックポイントには先生が立っている。
チェックポイントでは、まず一人ひとりが持っているしおりにスタンプを押してもらい、それから先生に班員の集合写真をポラロイドカメラで撮影してもらう。
その写真を最終チェックポイントに立っている先生に見せてチェックを受けたらゴール。
そういうルールだった。

早くゴールした班は、最後のチームが到着するまでゴール地点にあるお土産屋さんで自由に時間をつぶして良いことになっていた。
わたしも、しばらくお土産屋さんを見て回っていた。

凛ちゃんがいない。

そのことに気付いたのは、わたしたちの班がゴールしてから30分くらい経った時だった。
あまりにお土産に熱中していて、気づくのが遅くなってしまったのだ。

わたしは人に話しかけるのは苦手だったけど、緊急事態だった。
だから、わたしは勇気を振り絞ってほかの子達に凛ちゃんを見なかったかと聞いて回った。
だけど、誰も凛ちゃんがどこに行ったかを知っている子はいなかった。
凛ちゃんの名前を出すと怪訝そうな顔をする子達も少なくなかった。
それだけ、凛ちゃんは学校で孤立してしまっていたんだ。




わたしは走り出した。
凛ちゃんを探さなきゃ。
その気持ちだけが先だって、無我夢中だった。
西の空に浮かぶ太陽には厚い雲がかかり始めていたけれど、そのことに気付く余裕はなかった。
ただただ、がむしゃらに高原の道を走った。

わたしの足に迷いはなかった。
凛ちゃんがいる場所なんて分からないはずなのに、なぜか自ずと一つの方向に足が進んでいった。

空がどんどん暗くなっていく。
厚く、どす黒い雲が空全体を覆い始めていた。

青々と成長した草木の間をかき分けて進んでいく。
驚いたバッタたちが次々と飛び跳ねる。

遠くで、稲妻が光るのが見えた。

いた。
道を外れて、草木をかき分けて進んだ先にある小さな沼の畔に、凛ちゃんがうずくまっていた。
水面をぼんやりとみつめているのか、じっとしていて動かない。

雷の音が鳴り響き、一気に大粒の雨が落ちてきた。
冷たい雨粒が、またたく間に世界を水浸しにしていく。

「凛ちゃん!」

わたしは、激しい雨音に負けないくらい大きな声で、凛ちゃんに呼びかけた。

「かよちん……?」

凛ちゃんは、水面を見つめたまま弱々しく答えた。

「どうしたの?凛ちゃん!」

凛ちゃんは答えない。

「具合が悪いの?」

ぬかるんで足場の悪い土に足を取られそうになりながら、わたしは凛ちゃんのそばに駆け寄って、凛ちゃんを抱きしめた。
雨に濡れた凛ちゃんの体は、とても冷たくなっていた。

雷鳴が鳴り響き、雨はますます強くなっていた。

「猫がね、いたの……」

凛ちゃんが、ぽつりと口を開いた。

「猫?」

「うん……」

それが、わたしが聞いた凛ちゃんの最後の言葉だった。
空が光り、その瞬間に轟音が台地を揺らした。

薄れゆく意識の中で、一瞬奇妙な感覚を覚えた。
それは、言葉で表すことは非常に難しいけれど、例えて言うならば、真実の光が心を満たしてくれるような、そんな感覚。
けれど、そんな感覚も一瞬で……そこで、わたしの意識は途切れた。




再び目を覚ましたとき、滝のような雨はまだ降り続いていた。
高原の道から少し外れたところにある、小さな池の畔。
けれど、その風景は変わり果てていた。

草木が黒焦げになり、泥がその上に激しく撥ねていた。

そして、黒焦げの草木の隙間に、凛ちゃんがいた。
草木と同じように激しく焼かれ、激しい熱で肉体の一部が溶け出し、服も炭と化して黒く焦げ付いていた。

「凛ちゃん……凛ちゃん?」

声を掛けても、返事は帰ってこない。
大雨に打たれた体は、さっきの何倍も冷たくなっていた。
だからわたしは、悟ってしまった。

凛ちゃんは雷に打たれ、死んでしまったのだと。

「うわああああああああああ」

血の気が引いて、視界が急速に色を失っていく。
呼吸が上手くできない。
手足のしびれが、現実とわたしの内側を切り離すような感覚。
凛ちゃんが……死んだ?
実感が湧かない。
わたしの頭が、理解することを拒否している。
だけど……。
遠ざかる意識の中で、雨音とともに焼けただれた凛ちゃんの姿だけが鮮明に浮かび上がり、脳裏に深く焼きついた。

第4章へ続く

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