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歩くんですの箱 SS置き場

躍動感を表現するにはどうすればいいんだろう……と日々考え中。

【ラブライブSS】ことり「それでも、変わる世界が好きだから」Part02

Part02 (Part01の続きです)
渦巻くようになだれ込んでくる、記憶。
ただただ、落ちていく。
下へ、下へと。
さっきまで立っていた崖の先端が、ものすごいスピードで遠ざかっていく。

落ちる。なぜ?
落ちたら、どうなるの?

落ちたら、死ぬ。

そういえば、それもわたしがかつていた世界で知ったことだったんだ。

落ちる。落ちる。落ちる。
景色が回転していく。

これが、わたしという存在の果てなの?
きっとそうだ。
こんな結末が、世界を捨てたわたしにはふさわしい。

いや、違う。
だってわたしは、世界を捨ててない!
一度は逃げ出したけれど、それでもわたしは、ずっとその世界に戻ることを望んでた。
わたしは、元の世界に帰りたい!

そう思ったとき、ふと体が軽くなった。
ふわりと空気をつかむような感覚。

そうだ。
わたしはことりだった。
南ことり。それが、わたしの名前。

いつか空に羽ばたく。
大きな強い翼で飛ぶ。

わたしは今、空を飛んでいた。
このまま飛んでいけば、元いた世界に戻ることが出来る。
そこで、わたしは生まれ変わるんだ。

自分の気持ちに素直なわたしに。

 ***

だいぶ元の世界の近くまで戻って来たということでしょう。
この辺りには時間の流れがあるみたいです。

時間が流れているこの場所でなら、元の世界で何が起こったのかを、ぜんぶ思い出すことが出来ます。

それは、ことりが海外留学を取りやめて、音ノ木坂学院の3年生になって少し経った頃のことでした。

 ~回想~

海未「ことり、少しお話があります」

ことり「どうしたの?」

海未「実は、ちょっとここでは話し辛いことなので、放課後少し付き合ってもらえませんか?」

ことり「うん、いいよ」

 ***

ことり「わあ、この喫茶店に来るの初めてだよ」

海未「今日は私が奢りますから、好きなものを頼んでいいですよ」

ことり「そんな、別にいいのに」

海未「いえ、私の都合で付き合わせてしまったのですから」

ことり「……なんだか今日の海未ちゃん、ずいぶん改まった感じだね」

海未「……」

ことり「?」

海未「コホン。ことり」

ことり「は、はいっ」

海未「あなたは、穂乃果のことをどう思っているんですか?」

ことり「えっ!?それって、どういう……」

海未「そのままの意味です。あなたは、穂乃果のことが好きですか?」

ことり(これって……やっぱそういう意味の質問なの?いやでもでも、ことりが穂乃果ちゃんのこと恋愛対象として意識してるなんてバレちゃったらまずいよ……。とりあえず誤魔化さなきゃ)

ことり「うん、もちろん好きだよ。だって、穂乃果ちゃんは大切な友達だもん」

ことり「何度もことりのこと引っ張ってくれて、ことりの知らない世界に連れて行ってくれた」

ことり「スクールアイドルだってそうだし、海外留学のときだって、もし穂乃果ちゃんが来てくれなかったらって思うと……」

海未「そういうことを聞きたいのではありません」

ことり「え?」

海未「あなたはもっと、穂乃果に特別な感情を抱いている。違いますか?」

ことり「な、なんのことかな……」

海未「私には分かります。だって、私もあなたと同じなのですから」

ことり「えっ。それってつまり……」

海未「ええ。私は、穂乃果のことを恋愛対象としてお慕いしています」

ことり「へ、へぇ~、意外だなぁ。海未ちゃんって結構クールだから、あんまり恋愛ごとに興味とかないのかなー、なんて思ってたのに、えへへ」

海未「私だって年頃の女の子です。恋愛にだって興味はあります」

ことり「あはは、そうだよね。分かった。ことり、応援するよ。海未ちゃんと穂乃果ちゃんのこと」

海未「それは、本心ですか?」

ことり「もちろん。しっかりした海未ちゃんと、すぐに突っ走っちゃう穂乃果ちゃんだったらすっごくお似合いだと思う」

海未「私に気を遣う必要なんてないんですよ?」

ことり「そんなんじゃない。本当にお似合いだって思ってるもん」

海未「……本気で言っているなら、あなたは何も成長していないってことですよ」

ことり「ことりは、そんなんじゃ……」

海未「ことりがそれでいいなら、私もこれ以上何も言いません」

海未「私は明日の放課後、穂乃果に告白してきます」

ことり「そっか。上手くいくといいね」

海未「ことりは、自分が納得できるように行動してください。せいぜい後悔しないようにすることです」

海未「では、私は先に失礼します。お金はこれで払ってください。お釣りは返してもらわなくていいですよ」サッ

ことり「あっ、海未ちゃん……」

ことり「行っちゃった……」

 ***

そのまま、日付が変わって、やがて放課後になりました。

ことり「あー、今頃海未ちゃんは穂乃果ちゃんに告白してるんだろうな……」

ことり「うぅ、やっぱり穂乃果ちゃんが取られちゃうって思うと辛いよ」

ことり「穂乃果ちゃん……」

ことり「あーダメダメ。二人のことは応援するって決めたんだもん!」

ことり「はぁ……」

ことり「でも、これでいいんだよね」

ことり「海未ちゃんはことりなんかよりずっとしっかりしてて、大人っぽくて美人だもん」

ことり「あの二人なら、きっと幸せになってくれるよね」

 ***

穂乃果ちゃんや海未ちゃんとはいつも一緒でした。
3人でいる、たったそれだけのことがなにより幸せでした。
これからも、ずっとそんな毎日が続けばいいと思っていました。

でも、わたしたちは変わってしまいました。

最初は、ただ単純に悲しかった。
でも、失恋の辛さは時間が経つにつれて薄れていきました。
だって、二人はことりの大切なお友達なのです。
二人が幸せなのに、ことりが悲しむ必要なんてないはずでした。

それでも、ことりの穂乃果ちゃんへの想いが消えることはありませんでした。
海未ちゃんと穂乃果ちゃんが付き合い始めてから、3人のなかでことりだけがぽつんと取り残されたみたいに感じるようになりました。
二人はいままで通りことりとお話ししてくれるけれど、今のわたしには、そんな二人と一緒に笑っているのが辛いです。
ことりが穂乃果ちゃんのことを好きにならなければ、二人とだって今まで通りの関係を続けられたはずなのに……。
わたしが、変わってしまったから。
わたしが、それを望んでしまったから。

続くはずだった、あの楽しい日々を壊してしまったんだ。

後悔。

変わってしまうのは怖い。
なにより、自分が変わってしまうのが怖いです。

殺人事件がありました。
老人ホームで火災が起きました。
台風で、子どもが川に流されました。

ニュースは、変わる世界の悲しい出来事を毎日伝えていました。

変化が悲しみを生むなら、わたしだけは変わらないでいたいと思いました。
でも、穂乃果ちゃんのことを好きになって、海未ちゃんと穂乃果ちゃんが付き合い始めたとき、既にわたしは変わってしまっていました。

古典の授業で、方丈記を読みました。
平家物語の冒頭だって、暗唱できるようになりました。

きっと、変わってしまうのはどうしようもないこと。

そうやって悲しみを生み続ける世界に、果たしてどれほどの意味があるのでしょうか。

 ***

ある日の練習中のことでした。

ことり「」フラッ

海未「大丈夫ですか!?ことり!」

絵里「どっ、どうしたの!?」

ことり「あはは、ちょっとよろけただけ」

穂乃果「本当に大丈夫なの!?」

ことり「心配しないで。ことりは大丈夫だから」

絵里「心配するわよ!ちょっと失礼……、まあ、すごい熱じゃない!」

海未「本当です!なぜ練習を休まなかったんですか」

凛「無理したっていいことないにゃー」

花陽「ことりちゃん、立てる?」

ことり「あはは、今はちょっとキツイかな。でも少し休んだら大丈夫だから……」

にこ「そういうわけにはいかないでしょ。今希が救急車呼んでくれてるから、来るまでゆっくり休んでなきゃだめよ」

ことり「うん、ごめんね。みんなに迷惑かけて……」

ことり「ごめん、少し休むね。なんだかすっごく眠いの……」

希「ことりちゃん?」

ことり「スゥ……スゥ……」

海未「ちょっと、ことり!?」ユサユサ

ことり「……」

 ***

わたしの、元いた世界での記憶は、ここで途切れています。
きっとこれが、わたしの意識が世界を拒絶した瞬間でした。

 ***

そしてわたしは、変わる世界での意識を閉じて、何も変わらない世界に生まれました。

 ***

でも、わたしの心の奥には、変わる世界で起きた出来事がしっかり刻まれていました。
だからこそ、わたしは変わらない世界の中で、小さな変化を求め続けたんだと思います。
だって、わたしは変わる世界で、悲しいことなんかよりずっとたくさんの素晴らしいものをもらったから。

μ’sでのアイドル活動は毎日が新鮮なことばっかりで、みんな一生懸命で、途中から学校の存続のためなんて関係なくなるくらい楽しい日々でした。

変わる世界には、素晴らしいことだっていくらでもある、そんな簡単なことを、わたしは見失っていました。
結局わたしは、あのとき穂乃果ちゃんに想いを伝えなかったことを後悔しているだけだったんです。
海未ちゃんは、恋敵のはずのことりのことまですごくよく考えてくれて、後悔しないように、って言ってくれたのに。

わたしは、本当に馬鹿です。

 ~~~~

……

Part03へ続く

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