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歩くんですの箱 SS置き場

躍動感を表現するにはどうすればいいんだろう……と日々考え中。

【ハルヒ×きんモザSS】アリス「シノが金髪への興味を無くしちゃった」Part 05

Part05 (Part04の続きです)

【9.日曜日】

- 西宮北口・北東口 -

綾「髪型、おかしくないかしら……。この服、似合ってるわよね。うぅ、緊張してきた……」

綾「って、なんで陽子に会うだけなのにこんなに緊張してるのよ私!」

綾「それにしても、陽子と二人っきりかぁ……。なんだかんだで久しぶりのような気がするわ」

国木田「あれ、小路さん。誰かと待ち合わせ?」

綾「国木田くん!?え、ええ、陽子と待ち合わせしてるのよ」

国木田「あれ、おかしいな。僕も猪熊さんに呼ばれてここに来たんだけど」

綾「どういうこと?」

国木田「なんでも、役に立ちそうな参考書を一緒に探して欲しいってことらしくて。小路さんに頼んだらって言ったんだけどね」

綾「ぐぬぬ……なるほどね、話が見えてきたわ」

国木田「……小路さん?」

綾「陽子のやつ、余計なことしやがったわね」

♪ワタシ ツイテイクヨ ドンナツライ セカイノ ヤミノ ナカデサエ~

綾「……陽子から電話来たわ」ガチャ

陽子『もしもし~、アヤ~?』

綾「ちょっと、どういうつもりなのよ?」

陽子『えー、ちょっと何のことか分かんないなあ。それよりごめん、今日行けなくなっちゃったから、後は二人で頑張ってね☆』

綾「初めからこのつもりだったってわけね」イラッ

陽子『まあまあ、小説のネタ集めだと思って楽しんできてよ。綾のこと応援してるから。じゃあね』ガチャ

綾「はぁ……案の定だったわ」

国木田「僕にもメールが来たよ。猪熊さん、僕らのこと勘違いしてるみたいだね」

綾「そうね。とりあえず寒いし、近くの喫茶店でも入りましょう?」

国木田「良いのかい?せっかくの休みの日なのに」

綾「正直陽子の思惑にまんまと嵌るのは癪に障るけど、かといって折角ここまで来て帰るのもバカバカしいじゃない?」

国木田「あはは、それもそうだね。じゃあ、行こうか」

 ***

陽子「いひひ、作戦成功☆」

カレン「いやー、どんなラブラブデートを見せてくれるか楽しみデース!」

アリス「二人とも、覗き見なんて趣味悪いよぉ」

陽子「そう言いながらアリスだってついてきてるじゃん」

アリス「それは、シノも来るって言ってたから」

陽子「シノは残念だね。急に予定が入って来れなくなるなんて」

カレン「もったいないデース。あ、二人が移動を始めマシタ!」

 ***

- 喫茶店 -

綾「男の人と二人でこういうお店に入るの初めてだわ」

国木田「僕もだよ。とりあえず何か頼もうか?」

綾「そうね。……いろいろ種類があって迷うわ」

国木田「正直、僕には違いが分からないよ」

綾「こういうのって、もう少し説明があるとありがたいわよね」

国木田「種類が多すぎて選択肢を絞る段階で迷うよ」

綾「ダージリンも良いけど、今日は寒いしアッサムのミルクティーの方が温まって良いかしら」

国木田「小路さんって、結構優柔不断なタイプ?」

綾「そうね。すぐにぱっと決められちゃう人ってすごいと思うわ」

国木田「それ良く分かるよ。うーん……僕はこのアールグレイってのにしてみようかな」

綾「私はみるくちーにする」

国木田「えっ」

綾「か、噛んだだけよっ///ミルクティーよミルクティー」

国木田「分かってるって。ちょっと微笑ましいけど」

綾「からかわないで」

国木田「それにしても、今日これからどうする?」

綾「一般的に、異性と二人で休日を過ごす時って何をすれば良いんだと思う?」

国木田「僕も経験が無いから分からないなぁ。映画を見たり、ショッピングをしたりとか?」

綾「それってデ、デートじゃない」

国木田「ま、まあ、そう分類される活動のうちには入るのかな」

綾「でも、そうね……。それも社会勉強の一つかしら」

国木田「どういう意味だい?」

綾「いえ。私、恋愛小説を書くことになってるでしょ。今のところ全然内容思いついてないけど、こういうのも少しは参考になるかなって」

国木田「なるほど。じゃあ、今日一日はなるべく恋人っぽい感じで過ごした方が参考になるね」

綾「恋人!?ま、まあ言ってる意味は分かるけど」

国木田「じゃあ、しばらくゆっくりしたら映画館にでも行こうか」

綾「ええ、そうね」

 ***

カレン「おー、いい感じデース」ニヤニヤ

陽子「話してる内容が分からないのがもどかしいなぁ。カバンにマイクでも仕掛けておけば良かったか」

アリス「盗聴はダメ~!」

 ***

- 映画館 -

国木田「小路さんはどんな映画が好きなんだい?」

綾「えっと、れん……いや、特に無いわ。国木田君の好きなので良いわ」

国木田「そっか、じゃあこれなんかどうかな。結構甘々なシーンが観られそうだよ」

綾「私甘々な恋愛モノが好きなんて言ってないわよっ!」

国木田「いや、明らかにこの映画のポスターしか見てなかったし」

綾「ち、違うわよ!ただ、小説書くときの参考になるかなって思っただけ。それだけなんだからねっ」

国木田「うん、その通りだね」ニヤニヤ

綾「なに笑ってるのよ」ムスッ

国木田「いや、純粋に微笑ましいと思っただけだよ。それはそれとして、ポップコーンでも買っていくかい?」

綾「私、映画観るときは何も食べない主義なのよ。食べながらだとなんか集中できないじゃない」

国木田「もっともな意見だね。人間の脳は一つしかないから、コンピュータみたいなマルチタスクは元来向いていないよ」

綾「なによそれ。例えが分かりにくいわ」

国木田「ごめん……」シュン

綾「あーいや、そんなに落ち込まなくていいから」アワアワ

国木田「いや、あんまりそういうこと言われたことなくて、ちょっとびっくりしただけだよ。君が3人目くらいかな」

綾「十分多いわ!それあれでしょ?人間が『同じことが今まで何回あったっけ?』って思った時の大体の回数ってやつ。国木田くん、そこそこ言われ慣れてるでしょ」

国木田「うん。だから安心していい。君が特別ってわけじゃない」

綾「はぁ……何よそれ。まあでも、私は国木田くんの話、だいたい分かりやすいって思ってるわよ」モジモジ

国木田「お世辞はいいよ」

綾「本音なんだけどな……」ボソッ

 ***

『君は、本当は桜の木が大好きだ』

『嫌いよ。桜なんて』

『嘘だよ。だって、君が桜の話をするとき、君はとっても辛そうだ』

『私が大切にしていたもの。大好きだった人たち。それが失われていくときの辛さなんてあなたには分からないわ』

『ぜんぶ、偶然じゃないか。たまたま桜の時期に重なっただけじゃないか』

『偶然か必然かの差にどれほどの意味があるっていうのよ?どっちにしたって、私にとっては、決して揺るがない過去がそこにあるだけ』

『だったら君は何で泣いているんだ?君が大嫌いな桜並木が、いま目の前で伐採されている。それは君にとって喜ぶべきことのはずじゃないのか』

『泣いてなんか……ない。泣いてなんか……』

『君は、後悔しているんだ。大好きな桜を嫌いだって言い張らなきゃいけなかったこと。何もかもを桜の樹のせいにしていたこと。君は、一斉に咲いてすぐに散っていく桜のことをこんな風に言ったね。きれいな花を咲かせて、人々をぬか喜びさせて、そのくせすぐに散っることで人々の幸せを吸い上げてるんだって。でも本当は、君はあの桜吹雪に救われたんだ。桜吹雪に包まれることで、君はほんの少しだけ、生きる希望を取り戻すことが出来た』

『違う……そんなの全然違う』

『君は桜のせいにすることで救われてたけれど、その事実が桜が大好きな君自身を苦しめてもいる。だから、もう桜が嫌いだなんて言わなくて済むように、僕が君を守る。どんなことがあったって、これからは僕がいる。もう桜のせいにしなくたって、桜を嫌わなくたっていいんだ』

『私は……』

『ほら、見えるかい?もうあの桜並木はほとんど残ってない。だけどまだ間に合う。行こう。あの桜の木の下に』

綾(いい話だわ……ぐすっ)ボロボロ

国木田(良かった。喜んでもらえてるみたいだ)

…………
………
……

綾「あれ?」

綾(映画のスクリーンが……消えた!?)

綾(映画館の座席も、スクリーンも出入り口も無くなってる。一体何が起きたっていうの!?)

綾(それに、とっても静かで何もない。淡いクリーム色の光が満ちて……まるでおとぎ話の中の世界みたいだわ)

??「何もないところでしょう?」

綾「陽子!?」

綾「じゃなくて……えっと、どなたですか?」

??「はじめまして。私は橘京子って言います。この世界のことに詳しい通りすがりの人、とでも思っておいて?」

綾「あの……ここは一体なんなのですか?私はどうしてこんなところに」

橘「きっと、大宮忍に近い人間だから早いうちに引き込まれたのね。きっと、探せばあなたのお仲間さんもいるはずです」

綾「私はさっきまで映画を見てたんです。なのに気づいたらこんな訳の分からない場所にいて……いったい何がどうなってるんですか!?」

橘「安心して下さい。じき、この世界はもっとあなたが良く知っている世界に近い姿に変わるわ。しかも、今までよりもずっと素敵な世界になる。何も心配はいりません」

綾「そんなことどうでもいいですから、早くここから出る方法を教えて下さい!」

橘「誤解しているようだから教えてあげます。紙には表と裏があるのと同じように、世界にも表と裏みたいなものがあるのです。でも、表も裏も本当はどっちに注目するかの差でしかない。どっちの面に意味のある情報を印刷したかの差でしかありません」

綾「表?裏……?」

橘「あなたが良く知っている世界が表でこの世界が裏の世界なのだとしたら、もうすぐ表と裏は入れ替わります。表の面は紙面の使い方が悪くてぐちゃぐちゃになってしまいました。でも、裏の面は表面よりずっと紙面の使い方が美しい。そうなるようになっているのです。紙面の使われ方がより美しい面が新しく表の面になるだけのこと。その方がずっと良いでしょう?」

綾「ごめんなさい。まったく意味が分からないわ」

橘「実際に見てもらった方が早いでしょうね。そうすればきっと、この世界があなたの良く知っている世界よりもずっと素晴らしい場所であることが分かると思います。ついて来てください」

 ***

キョン「あー、暇だ。こうやって家でぼうっとテレビを観ているだけの休日こそが平和で最高だぜ」

♪モンダイナンカ ナニモナイヨ ケッコーケッコー イケルモンネ~

キョン妹「キョンくんでんわ~」

キョン「言われなくても分かってるって」

キョン(既視感のある会話だな。嫌な予感しかしないぜ……)

キョン「もしもしー」

古泉『どうも、古泉です』

キョン「何だ、お前か」

古泉『おや、電話の相手が僕では、ご期待に沿えませんでしたか?』

キョン「いや、ハルヒじゃなくて安心したよ」

古泉『それは光栄です。ですが残念ながら、安心しているような状況ではないのですよ』

キョン「……だろうな。お前が電話が掛けてくるのは、大抵厄介事が起きた時と決まっている」

古泉『厄介事も厄介事です。詳しい事情は来ていただいてからご説明するので、すぐに北口駅前の公園に来ていただけますか?』

キョン「やれやれ」

キョン妹「キョンくんどこいくの~?」

キョン「ちょっと用事が出来た。お前は大人しくお留守番してなさい。誰か来てもぜったいドアを開けるんじゃないぞ」

キョン妹「は~い」

 ***

- 西宮北口・駅前公園 -

長門「大規模な情報爆発が起きている」

キョン「はぁ……長門の第一声がそれか。ハルヒのやつ、今度はなにをやらかしたんだ?」

長門「今回の情報爆発の中心は一つではない」

キョン「なんだって?」

長門「その中心にいるのは涼宮ハルヒと、そして」

長門「佐々木」

キョン「なんてこった……」

古泉「機関としても、何が起こったのかはっきりと認識しているわけではありません。分かっているのは、涼宮さんの能力が佐々木さんに移ろうとしているということです」

キョン「なんだって?それは本当なのか」

古泉「ええ。信じがたいことですが、間違いないようです。涼宮さんが力を失い始めているため、当然ですが我々の力も薄れつつあります」

キョン「なぜ今なんだ。何か兆候でもあったのか?」

古泉「それを推測するには今の段階ではあまりに情報が不足しています。機関は涼宮さんの動向を24時間監視し続けていますが、何の異変も感知することはありませんでした」

キョン「そんな……。こんな大層な事件が何の前触れもなく起こるものなのか?」

古泉「いえ、それは考えられないことです。ですが、現に起こってしまいました。おかげで機関は現在恐慌状態ですよ」

キョン「このまま佐々木に能力が移ったらどうなるんだ?」

みくる「分かりません。ただ……TPDDが使えなくなってるの」

キョン「つまり、このままでは朝比奈さんの未来にとっては良からぬことになる、と?」

みくる「TPDDが使えないのは、あたしがもともといた時代とこの時代との間に時空断面が生じたからです。これ以上は禁則事項なんですけど……」

古泉「要は、このまま時代が進むと朝比奈さんがもといた未来に到達できなくなる。そういうことですね?」

みくる「はい……。だからあたし、不安で……」

キョン「だったら、何としても阻止しなきゃいけませんね」

みくる「はい。元の時代に帰れなくなるのは嫌です」

古泉「これはとても不確実かつ無関係な人間を巻き込む可能性のある情報なので機関にはまだ報告していないのですが、実は僕には一つだけ心当たりがあるんですよ」

キョン「なんだ、教えてくれ」

古泉「大宮忍さんです。僕が知る中では、彼女くらいしか心当たりがありません」

キョン「これまた意外な名前が出てきたな。彼女がどう関係してるってんだ?」

長門「大宮忍は、超能力を発現している」

キョン「なんだって?」

古泉「そういうことです。僕らと同じですよ。ただし、彼女は橘京子サイドですがね」

キョン「つまり、ハルヒじゃなくて佐々木の閉鎖空間に自由に出入り出来るってわけか」

長門「そう」

古泉「初めてお会いした時からその可能性には思い至っていました。突然趣味が変わる。何か自分にはやるべきことがあるのではないかという自覚を得る。超能力が発現する際に典型的な症状です」

 ~~~

忍『私の中で心変わりが起きているというのか、どうも最近は以前のように金髪少女に熱中するようなことは無くなったように思います。それと……そうですね、こんなことを言うと笑われるかもしれませんが、私にはもっと何か大きな、何か使命のようなものがあるんじゃないかということを思うことが多くて、最近はよくそういうことを考えます』

 ~~~

キョン「そういえば、そんなことを言っていたな」

古泉「それから、誰かから何事かを語りかけられるような感覚に陥る、というのも超能力を発現する際の特徴です。通常は、超能力を与えた人物の名前を聞くことになります。僕の場合は涼宮さんですね」

 ~~~

忍『なんと言えばいいのか……私の中の何かが、私に語りかけてくるのです。それが何なのかはあまり聞き取れないんですけど』

古泉『なるほど。例えば、誰かの名前が聞こえてきたりはしませんか?』

忍『そう言われてみればそのような気もします。でも……ごめんなさい、よく分かりません』

 ~~~

古泉「大宮さんは、既に自分が佐々木さんから能力を与えられた人間の一人であることを自覚しているでしょう」

キョン「とんでもない話だが、ひとまずは理解した。だが、それとこの件とどう関係がある?」

古泉「正直なところ、不明としか言いようがありません。だから不確定な情報だと最初に申し上げたんですよ。もしかしたら彼女は今回の件とは全くの無関係かも知れない。ですが、タイミング的に偶然とは思えないのです」

キョン「逆に言えば、それくらいしか手がかりがないってわけか……」

古泉「いずれにせよ、この事態は何としても止めなければなりません。すぐに佐々木さんのところに向かいましょう」

キョン「どこにいるか分かるのか?」

有希「私が案内する」

キョン「そうか、なら頼む」

 ***

国木田「あれ、綾さんは?」キョロキョロ

国木田「どうしたんだ?トイレにでも行ったのかな……」

国木田「でも、席を立った気配は無かったし……どうも嫌な予感がする」

 ***

国木田「とりあえず電話してみよう」

国木田「……」

『お掛けになった番号は、電源が切れているか、電波の届かない場所にあります』

国木田「つながらない。やっぱり何かあったんだ」

 ***

佐々木「来ると思っていたよ。キョン」

キョン「今何が起こってるのか、お前は分かってるのか?」

佐々木「うん。橘さんが説明してくれたからね。正直、実感はあまりなんだけど」

キョン「お前はそれでいいのか?世界を改変できるような巨大な力などいらないと言ったのは他ならぬお前じゃないか」

佐々木「僕はこの世界に満足しているし、僕の力で変えてしまうなんて大それた話だと思ってるよ。それは今も変わらない。でもね、涼宮さんの代わりに僕が力を持つことで救われる人間もいるんだよ」

キョン「そりゃそうかも知れないが、そうじゃない人間だって同じようにいるだろう。どうも言っていることがお前らしくないな」

佐々木「キョン、涼宮さんの世界と僕の世界では何が違うんだと思う?」

キョン「あいつは気まぐれに世界を振り回す。お前は恐らくそうじゃない。さぞかし世界は安定するだろうよ」

佐々木「その通りだよ。僕の閉鎖空間は5年前からずっと変わらない状態で存在し続けたんだ。そんな僕の閉鎖空間が今拡大し、世界を飲み込もうとしている」

キョン「おい、それはつまりどういうことなんだ?」

佐々木「今ある現実世界と、僕の閉鎖空間の立ち位置が入れ替わるということだよ。僕の閉鎖空間こそが現実世界となり、今ある世界の方が閉鎖空間に押し込められる」

キョン「そんなことが起こるというのか……」

古泉「涼宮さんの閉鎖空間は神人が破壊行為を進めていくことにより拡大し、やがて僕らが現実と認識している世界と入れ替わるというものでした。僕らはそれを阻止するために神人を倒し続けてきたのです。同じように、佐々木さんの閉鎖空間も拡大すればこの世界と入れ替わってしまうことになるでしょう」

キョン「ハルヒの能力を手に入れるのみならず、自分の閉鎖空間をこの世界と入れ替えちまおうってのか。一体お前は何がしたいんだ」

佐々木「後者の方は、厳密には僕がやっているわけじゃないんだけどね。僕はただ受け入れただけだよ」

キョン「受け入れた?何をだ。まさか、橘の口車にほいほいと乗せられたんじゃないだろうな」

佐々木「もちろんそんなわけないじゃないか。それに、仮に彼女がどうこうしたところで涼宮さんの力を僕に移すようなことは出来ないよ」

キョン「なら、一体何を受け入れたと?」

橘「言えるわけないじゃありませんか」

キョン「橘!いつからそこにいた?」

橘「ずっと、とも言えるし、今現れた、とも言えるでしょうね。さきほどまで佐々木さんの閉鎖空間の中にいました」

キョン「おい橘、中に入れろ。佐々木の閉鎖空間の中に。今すぐだ!」

橘「慌てなくったって、いずれこの世界全体が佐々木さんの閉鎖空間に取り込まれるのですから、それを待ったらどうですか?」

キョン「そんなわけに行くか!世界が入れ替わってしまってからでは遅いだろうが」

橘「むしろ私たちはそれを歓迎しています。せっかくそれが実現しようとしているタイミングでわざわざ部外者を入れるような真似をすると思いますか?」

キョン「古泉。何とかして中に入れないのか?主は違うとはいえ、閉鎖空間であることには変わりないだろう」

古泉「厳しいでしょうね。ただでさえ涼宮さんのものでない閉鎖空間には不完全な状態でしか介入できない上に、僕の力は着実に弱っていますから」

キョン「どうにかならないのか?長門」

有希「出来ないことはないが、危険を伴う。現状の情報を完全に保存した状態で介入できる確率は1%以下。高確率で欠損が生じる」

キョン「欠損とはどういうことだ?」

有希「物理的または精神的な後遺症」

古泉「佐々木さんを説得することが出来れば、閉鎖空間の中に入らなくてもこの現象を阻止することは可能です」

キョン「だろうな。だが、佐々木を説得するのは無理だろうよ」

佐々木「くっくっ、さすがキョンだね。僕のことをよく分かっている。キョンの言う通り、僕は何を言われても意見を変えるつもりは無いよ」

古泉「なぜです?あなたは神になるおつもりですか?」

佐々木「とんでもない。世界を改変できるなんてとてつもなく強力な能力が手に入っても、結局僕は何もしないだろう。せいぜい、石で躓きそうになってる小さな子どもを見たらその石をどけてあげるくらいが関の山だろうね」

古泉「ならば尚更です。あなたが世界を手に入れようとしている理由が分からない」

佐々木「僕はただ、悲しみの種を取り除きたいだけさ。この世には悲しいことが沢山あるけれど、それが一つでも減ったら世界はほんの少しだけ良い方向に向かうと思わないか?僕の願いは、たった一人の少女の悲しみを取り除くことなんだよ」

キョン「なに?それは誰のことなんだ」

橘「これ以上の会話は不毛です。いくらここで話し合ったとしても、佐々木さんの心は決して変わらない。このまま待っていれば、じきに佐々木さんの閉鎖空間はこの世界のすべてを覆い尽くすでしょう。あなた達にはもう手の打ちようはありません。決着はとうについています」

古泉「仕方がありません。一肌脱ぐしかないようですね。佐々木さんの閉鎖空間に介入します。無理は承知ですが、今は手段を選んでいる場合ではありません」

長門「やめて」

古泉「長門さん?」

長門「仮にあなたが入ったとしても、状況が変わるかどうかは分からない。成功確率に比してあまりにリスクが大きい」

古泉「しかし、もうこれしか手は……」

長門「私は、あなたに犠牲になって欲しくない」

みくる「そうですよ。みんな無事でいられるのなら、たとえ今の姿の世界を守れなくたっていいと思います」

古泉「でも、朝比奈さんはもう元の時代に戻ることは出来なくなります。涼宮さんが力を失えば、朝比奈さんのTPDDは使えないままでしょう」

みくる「分かっています。でも、あたしにとっては生まれ育った時代と同じくらい、SOS団のみなさんがいる今が大切だから」

古泉「それで、故郷へ帰ることを諦められるのですか?」

みくる「はい。誰かを犠牲にするなんて絶対にいやです」

古泉「まだ失敗すると決まったわけではありません。必ず無傷で帰って来ますよ」

鶴屋「やっほー。なんかシリアスな空気にょろね」

キョン「鶴屋さん!どうしてここに?それに、背中に負ぶってるその子は?」

鶴屋「いやー、なんかこの子に道案内を頼まれててさー。この子の言う通りに歩いてたらこっちに来たっさね」

??「ありがとうございました。ここで降ろしてください」

鶴屋「おっけー」

キョン「なっ、渡橋ヤスミ!?」

橘「あ、この子……なんてこと」オロオロ

ヤスミ「お久しぶりですね。覚えていてくれたなんて嬉しいです」

鶴屋「おっと、知り合いっかい?」

キョン「どうして……お前がここにいるんだ」

ヤスミ「えへへっ。あたしに出来るのはこれくらいだから」クタッ(床にへたり込む)

キョン「おい、どうした!立ち上がれないのか」

ヤスミ「久しぶりだからか、足が上手く動かないみたいで……えへへっ」

古泉「そういうことですか……。涼宮さんは、無意識のうちにこの緊急事態に再度保険を作動させたのでしょう。ただ、急のことだったために不完全な状態で再構成されたわけです。涼宮さんの力が弱っている以上、これが限界ということでしょうね。とことん規格外な方ですよ、涼宮さんは」

ヤスミ「では、あたしはあたしの役割を果たしますね」

キョン(次の瞬間、暗い灰色と淡く輝くクリーム色が入り乱れた混沌が空を覆い尽くした)

キョン(いつかも見た光景。ハルヒと佐々木の閉鎖空間が入り乱れたあの光景だ)

みくる「ふぇえ、なにが起きてるの?この空の色はなんなんですかぁ?」オロオロ

橘「なんで……やっぱり今回もダメなの?今度こそはと思ったのに……」

キョン「どうも、我々の逆転勝ちみたいだぜ」

橘「……いえ、まだ終わっていません」

古泉「その通りです。佐々木さんの閉鎖空間の膨張を止めなければ」

キョン「言われてみればそうだな。閉鎖空間に介入するのに気を取られてそこまで考えてなかったぜ」

古泉「涼宮さんの閉鎖空間が神人の破壊活動により拡大するように、佐々木さんの閉鎖空間が広がるにもその元凶となるものがあります。それを叩いてしまえば膨張は止まります」

キョン「ああ。今から向かおうじゃないか。その元凶とやらのところに」

橘「させません」

キョン「なっ!?」

目の前にいる橘が大きな剣をこちらに付き出していた。
それは、ガラスでできたように透明で、エッジが青白く輝いている。
いつの間にこんなものを出したってんだ。
こんなものを隠し持ってる素振りなんでどこにも無かったぞ。

橘「ここがどこなのか、そして私が何者なのか。それをお忘れではないですか?」

次の瞬間には、橘が剣を振りかぶり、俺の方に真っ直ぐに向かってきた。
切っ先が放つ光は軌跡を描いて俺の胸のあたりに真っ直ぐに突き進んでくる。
あまりの速さに俺はなすすべもなくその場にへたり込んだ。

もうダメか!?
そう思った瞬間、赤い光玉がこれまたものすごい速さで目の前を駆け抜けていった。

古泉「大丈夫ですか!?」

キョン「古泉!恩に着る」

橘「外してしまいましたか。ですが、次で終わりです!」

背後から声が聞こえてくる。
ぞっとした。
橘の姿が見えない。
背後を取られたってのか。いつの間に!?

橘「古泉君が私の目の前を通過する瞬間、赤い球体の境界に沿って剣を滑らせ、高速で移動しました」

古泉の赤玉がこちらに向かってくるのが見えた。
だが、橘はもう既に背後からこちらに全速力で向かってきているだろう。
さっきの速度から考えて、古泉が間に合う訳がない。

とっさに身をかがめ、背後を確認する。

橘「無駄です」

あっ、と思う暇さえなかった。
橘は剣先を斜め下に向けた状態で全速力でこちらに突っ込んできていた。
身をかがめたところで避けるすべなどない。

橘「ごめんなさい」

次の瞬間には、切っ先が真っ直ぐに俺の背中を切り裂いた……かに思われたが、その危険は間一髪で防がれていた。

長門「……」

長門が、手のひら一つで剣先を押し戻していた。
長門の指先から火の粉が舞うように青い光の粒が無数に散っている。

橘「お得意の情報操作ですか。でも、そんなペースじゃ間に合いませんよ」

押されていた。
あの長門が。
橘の剣が、少しずつ長門の手の平にめり込んでいく。

キョン「このままじゃやられる!」

俺は、とっさに長門の背後から飛び出し、橘の方に突進した。
体当たりでひとまず長門から遠ざけようという寸法だ。
しかし、橘に飛びかかろうとする瞬間、右肩のあたりに激痛が走った。

キョン「ぐっ」

慌てて見てみると、橘が片手で付き出した剣が俺の腕の付け根に突き刺さっていた。

橘「私が剣を一本しか扱えないとでも思いましたか?」

橘は、片手だけで長門と剣を交えつつ、空いたもう一方の手にも別の剣を持って俺に反撃してきたのだ。
しかも、その状態でなお橘は長門に対し優勢を保っている。
橘のやつ、いくらなんでも強すぎじゃねえか?

いかん、痛みと絶え間ない出血で思考力が低下してきた。
いまいち動く気にもなれず、俺は長門と橘の攻防をぼんやりと眺めるだけだ。

その時、でかくて赤い球体が猛スピードで飛んできた。
その球体は橘目がけて一直線に進んでいく。
もちろん橘も気づいたようで、先ほどと同じ二刀流でその球体をいなそうとした。

橘「くっ」

しかし、その瞬間橘がよろけた。
長門との一進一退の攻防は均衡が崩れ、隙をついて長門が橘の腕に手刀を見舞う。
いや、一見するとただの手刀に見えるが、実際には何らかの宇宙的パワーがふんだんに込められた、常人なら一発で腕が飛ぶレベルの攻撃であるに違いない。
しかし、閉鎖空間内での橘は流石というべきか、持っていた剣を落としただけだった。
その剣をすぐさま赤い球体が拾った。

赤い球体、いや、古泉と橘のもう一本の剣がぶつかり合う。
その辺りで俺の意識は混濁し、俺の記憶はそこで途切れた。
Part06へ続く

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