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歩くんですの箱 SS置き場

躍動感を表現するにはどうすればいいんだろう……と日々考え中。

【けいおんSS】梓「私の想い、聞いてください」平沢唯誕生日企画

本当は日付が変わる前に公開したかったのですが、間に合いませんでした……。

まあでも、なにはともあれ言いたいことは一つだけです。

11月27日
平沢唯ちゃん、お誕生日おめでとう!

【SS】梓「私の想い、聞いてください」
 11月も半ばを過ぎて、急に寒くなった。吐き出した息が白く煙っていくのを眺めながら、季節の移り変わりは本当に突然に訪れるものだと中野梓は思う。気づけば高校を卒業してから早3年、大学生活も半ばをとうに過ぎていた。梓は、高校を卒業した後軽音部の先輩達の大学には進学しなかった。大学では軽音のサークルに入ることもなく、ギターは趣味で続けることを選んだ。理由はなんとなくサークルの雰囲気が合わなかった、というぼんやりしたものだが、本当のところは軽音部での大切な思い出が新しい記憶で塗りつぶされてしまうのが恐かったからかも知れない。

 手に入れたもの、失ったもの。どちらも意識して探せばいくらでも見つかるものだ。だから、この3年間に何らかの評価を下すとしたら、学部生活においてあらゆる専門知識を手に入れ能力を向上させた3年間と言い表すことも出来るし、逆に軽音部を止めたことでみんなで一つの音楽を奏でる喜びから遠ざかってしまった3年間と表現することも出来るだろう。しかし、中野梓はこの3年間にどちらの評価を与えることもしなかった。彼女にとっては、高校を卒業して以来心にぽっかりと空いてしまった大きな穴、唯それだけが問題だった。


 ざくざくと音を立てて霜柱の下りたキャンパスの芝生の上を歩きながら、中野梓はある出来事を思い出していた。それは、今年の初め、ある雪の日のことだった。実のところ、彼女はそのときの会話の相手が誰で、相手がどんな言葉を言ったのかをあまり覚えていない。でも、その日が今日みたいにとても寒かったことと、雪が降っていたこと、そして、自分が相手に対して何と答えたのかということだけははっきりと覚えていた。身を切るような風の吹く中、相手はわざわざ梓を呼び出して『好きです、付き合ってください』といった意図のことを言った。それは梓が人生で初めて受け取った愛の告白だったが、その時の梓は断ることしか考えていなかったから、そのことにはきっと気づいていなかっただろう。梓は、相手の言葉を聞き終わるや淀みなくこう答えた。

「ごめんなさい。私には好きな人がいますから」

 その言葉に一番驚いたのは梓自身だった。自分はずっとあの人のことが好きだったのだということを、梓は自分の発した言葉を通して初めて知ったのだった。言葉にすることで初めて気づいた自分の本当の気持ち。高校を卒業して以来ずっと心にぽっかりと空いていた穴の正体。そして、その言葉を伝えられず仕舞いになってしまったことへの後悔。そういった思いがないまぜになって溢れ、まるでダムでせき止めていた水を一気に放流したかのように彼女の中を駆け巡った。

「唯先輩……」

 口に出すだけで胸が締め付けられるような切ない気持ちになる。でも、それと同時に心のどこかがぽかぽかと温まってくるのを感じる。恋というのはどうしてこうも矛盾しているものなのか。恋を病と表現する人がいるが、その意見はきっと正しい。この病状を恋だと気が付くまでにどうしてこんなに時間がかかってしまったのだろう。もっと早く、自分がまだ高校生だった頃にそのことに気付けていたら何かが変わっていたのではないか。過ぎてしまったことはもうどうしようもないことなのに、それでも思考はぐるぐると止めどなく巡り続ける。

「そういえば、そろそろあの人の誕生日だよね」

 誰に言うでもなく、中野梓は一人つぶやく。その言葉は、口から出たそばから白い煙となって灰色の空へと消えていった。そんな梓の頭をこつんと叩くように、懐かしい言葉がふと蘇った。

「あずにゃんはあずにゃんのやりたいようにやればいいんだよー」

 それは、高校3年生になったばかりの時、先輩が全員卒業してしまった後の軽音部を任され不安でいっぱいだった梓を勇気づけた言葉だった。やりたいようにやればいい。とてもよくありがちで、無責任な言葉。しかし、平沢唯が発したこの言葉ははむしろ梓のすべてを受け入れるような包容力を備えていた。1年生の時からの親友だった2人と後輩2人を新たに部員として迎え、梓率いる軽音部はこれまで先輩達とやってきた放課後ティータイムとはまた違った道を歩んだ。それは、まさに唯の言った通り、梓が自分のやりたいように自分の道を進むことができたことの証でもある。

 立ち止まってなんかいられない。自分のやりたいようにやればよい。靄が晴れたように、梓の目に意志の光が宿った。

 ***

 家に帰った梓は、まずずっと愛用してきたギターをケースから取り出した。このギターにむったんなどと奇妙な命名をしたのも平沢唯だった。弦の一本一本を慣れた手つきでチューニングしていく。それが終わってから、梓は思うがままに弦をはじき始めた。気まぐれに音を鳴らしているだけとはいっても、素人がただデタラメに弦を鳴らしているのとは違う。左指が時々刻々と所定のキーを抑えており、なんとなくそれらしい音楽を奏でているようにも聞こえる。そうやって梓はしばしの間名もなき楽曲を演奏していたが、やがてギターを床に置き、今度は机の上に一冊のノートを広げ、その上に何か言葉を書き始めた。しかしなかなか考えがまとまらないようで、書いては消し書いては消しを何度も繰り返し、まもなく真っ白だったノートのページは打ち捨てられた語句と打消し線でいっぱいになった。組み上げた言葉の積み木の山は少しずつ形を成していく。でも、また一つ積み上げるとあっという間にバランスの悪いところから崩れ去ってしまう。ノートの上で、そんな作業がひたすら繰り返された。

 軽音部時代、作詞は梓の役割ではなかった。だから、いざこうしてやってみて初めて、あんなに心が躍るような奇跡みたいにバランスのいい言葉達を組み上げる秋山澪や平沢唯がどんなにすごかったかということに思い至った。しかし、今の梓はそんな無力感を打ち砕くほどの大きな衝動に突き動かされていた。だから、自分と彼女らとの間にはどれだけの隔たりがあるのかを目の当たりにさせられながらも、梓は諦めようとはしなかった。技術的にはどんなに拙くても、精いっぱいの思いを言葉に乗せて、自分なりの方法で彼女のところまでたどり着く。たった一人の想い人に捧げるためだけの曲を完成させる。ここでも、梓は想い人の『やりたいようにやればいい』という言葉に勇気づけられていた。

 ***

 翌日。

 梓は午前中で講義を終え、かつての先輩の家を訪ねていた。その先輩とは、軽音部時代に多数の詞を手がけた秋山澪だった。澪のベーシストとしての腕前は伊達ではなく、その意味で澪は梓にとっての憧れだった。

 大学4年になった秋山澪は、梓とたった1年しか違わないのにずいぶんと大人びて見えた。もともと高校時代からスタイル抜群で大人っぽい風貌だったが、その頃から比べてもその美貌には拍車がかかっているように思われ、まさに大和撫子と呼ぶに相応しい女性へと変貌を遂げていた。

「どんな気持ちを伝えたいのか。とにかく心がこもっていることが何よりも大事なんじゃないか?」

 どうすれば良い詞が書けるのかを尋ねた梓に、澪はまず初めにそう答えた。だが、梓が聞きたかったのはどうすれば気持ちが伝えられるような詞を書けるのかという点であり、そのことは澪も理解していたようで、いくつかの例を出しながら情感を伝えやすいフレーズ、聞いていて心地のよい言葉選びの秘訣など、技術的なアドバイスをくれた。

 ほかには律や唯や紬の取り留めもない話、大学のサークルで新たに知り合った人たちの話、学食で出される料理のレベルが低いという話、大学生協のひと言カードに対する生協スタッフの返答が秀逸だという話などたわいもない話題でしばらく盛り上がった。先輩達はもう全員就職を決め、講義も無いので今は大学に行ったり行かなかったりしながら卒業論文を書く準備を進めているという。ただ、律と唯は3年次までの必修単位を大量に落とし、前期の間は留年の危機脱却のために地獄のような生活を送っていたらしい。就活も相まって死んだ魚でももう少し目に光が宿っているのではないかというほど生気を失っていて、さすがに心配になった澪と紬がレポート課題の手伝いなどかなり手厚いサポートを行ったとのことだ。一方、紬も紬で天然ボケが度を過ぎ、常にトップレベルの成績を残しながらも半期分の単位を丸ごと申請し忘れるという重大なミスを犯して2年から3年の進級が出来なかったという。なので紬は1年留年しているのだが、それでも他の先輩達と同じように今年で卒業となる。

「どういうことですか?」

 梓の質問に澪は笑って答えた。

「ムギは規格外の頭の持ち主だからさ。成績上位者ってことで早期卒業が認められたんだよ」

 早期卒業とは、成績が際立って優秀だった学生を対象に3年間で卒業を認めるシステムだという。となると、紬は2年生を2回繰り返した後今年3年生になり、そして4年に上がることなく来年の春に卒業という訳だ。

「それはもう、いろんな意味で規格外ですね」

「だな。早期卒業なのに大学に4年間在学した人はきっとムギが初めてだよ」

 そういえばムギ先輩にも後でお世話にならないといけないかな、と考えながら、梓は澪の家を後にした。

 ***

「梓ちゃん、久しぶりね~」

 久しぶりに会った琴吹紬は、相変わらずのほんわかっぷりで梓を和ませた。

 澪のアドバイスを受け、ようやく詞が形になったところで、今度はその詞に曲をつけるためのアドバイスをもらおうと紬の元を訪れたのだ。

 紬もとても美しい女性であったが、その美しさというのは澪のものとは性質の異なるもので、高校時代から変わらない包み込むような優しさを全身から溢れださせていた。澪の美しさが成長し高みへと上っていくものなのだとしたら、紬の美しさは普遍的な価値として常に存在し続けて周囲の心を和ませる働きを持っていた。

 紬は、ティーセットに紅茶を入れて梓をもてなした。最近のマイブームは香り豊かなダージリンだという。一緒に出されたパウンドケーキをほおばりながら、二人は長い間今昔の話題に花を咲かせた。その中には澪と話した話もあれば、琴吹家のメイドであり梓の後輩でもある斉藤菫のドジっ子エピソードを語り合う一幕もあった。

 ***

 11月26日。

 平沢唯の誕生日があと一日に迫っていた。中野梓は、この日のためにこれまでの準備を進めてきた。その準備というのはまだ終わってはおらず、一部の歌詞にまだメロディーが乗っていない状態である。このあと演奏の練習をして、歌の練習をして、明日披露するということを考えるとやることは目白押しであり、梓は焦りを覚えていた。

 それでも梓は大学に通い、午後の最後の講義まで出席し、内職に興じることも無くまじめに講義のノートを取った。講義が終わると大急ぎで家に帰り、最後の詰めにとりかかった。

「うーん、こうじゃない……」

 午後8時。梓は、夕食を食べることも忘れ作業に没頭していた。大方曲は完成していたが、一か所だけどうしても納得できない部分があった。それは、梓がこの曲を作る上で一番こだわってきたフレーズにあてるメロディーだった。

 あなたがいたから わたしはわたしの道を歩けたんだ

 飛べない羽でも 足元しか見えなくても

 あなたがいる それだけで

 I progress my way to you

「あずにゃんはあずにゃんのやりたいようにやればいいんだよー」
 この言葉に幾度となく勇気づけられてきた、そのことを一番に伝えたかった。懸命に羽ばたこうとしても不器用だから空に飛び立つことはできない。もしも空を飛べたなら、俯瞰で全体を見渡すことができたなら自分の向かうべき場所もすぐに分かったのかも知れない。だが、そんなことは出来なくても唯の言葉が梓の道しるべとなり続けたのだ。羽という単語をあえて使ったのは、唯達が卒業するときに梓に遺していった歌「天使にふれたよ!」に呼応するためだ。

 日付はすでに変わっていた。平沢唯の誕生日当日。しかし、まだ曲は完成していない。唯の自宅には大学が終わった後夕方に向かうことになっていた。残された時間はとても少ない。でも、根をつめたところで良いアイデアが浮かぶことなどないということを梓は経験的に知っていた。気分を変えるために湯船に浸かり、布団を敷き、横になった。瞼を閉じて外界からの情報をシャットアウトすると、自分の内面に意識が集中する。ぐるぐるとまだ完成していない音楽が頭の中を巡る。だが、音楽はどうしても問題のフレーズのところで途切れるのだった。

 ***

 11月27日。

 生真面目にも梓はこの日の講義もすべて出席し、唯達が住む大学寮のある町へ向かう電車に揺られていた。曲は何とか完成した。納得の出来とはいかなかったが、もう作り直す時間が無い以上このまま本番に臨むしかなかった。問題は、演奏も歌の方もろくに練習できていないということだ。頭の中で何度もイメージトレーニングを繰り返し、何とか練習の遅れを本番までにカバーしようと奮闘してはいるが、それもどこまで通用するだろう。

 駅前でかつての軽音部の仲間と合流した。先輩達が卒業した後の軽音部で「わかばガールズ」として一緒に歩んだ仲間だ。唯の寮で誕生日のお祝いをすると言ったら集まってくれたのだ。その中には、唯の妹である平沢憂もいた。久しぶりの再会は嬉しかったが、一方で自分が唯に対して抱いている気持ちを考えると、なんとなく顔を会わせづらい相手でもあった。梓の知る限り、憂のお姉ちゃんっ子ぶりは相当のものだった。溺愛している姉に恋人が出来ることを憂は歓迎してくれるだろうか。もっとも、それはもしも梓が唯の恋人になったとしたらの話だ。それ以前に、自分の友人が同性に想いを寄せているという事実だけで憂が梓を敬遠するには十分な理由であるように思われた。

 パーティーは盛大に行われた。紬が満を持して準備したティーセットと先輩方イチオシのケーキ屋で買ってきた、ふわふわでしかし全体としてはずっしりとボリュームのあるホールケーキの組み合わせは最高だった。大きないちごを本当にうれしそうにほおばる唯の姿はまるで無邪気に喜ぶ子どもみたいで、梓は思わず笑みをこぼさずにはいられなかった。

「唯先輩は昔からぜんぜん変わりませんね」

「もー、あずにゃんそれどういう意味?今日でもう22才なのにー」

 梓の言葉に唯は反論を見せる。しかし、律がすかさず

「唯はいつまで経っても子供だからなー!」

と茶化す。そのまま律は唯の留年寸前エピソードを披露し、澪に

「お前も人のこと言えないだろっ!」

とツッコまれていた。

 そして、パーティーもいよいよ終盤。梓は、先ほどまでとは打って変わって緊張した面持ちで唯の正面に立つ。何が始まるのかと困惑気味の表情を浮かべる唯に対し、梓はゆっくりと話し始めた。

「唯先輩、お誕生日おめでとうございます。今日は、私から唯先輩にプレゼントがあります。大したものじゃないけど、ぜんぜん上手くできてないけど……でも、頑張って作ったものだから、どうか受け取ってください」

 そして、梓は一つ一つの動作を確かめるようにギターを取り出してチューニングを始めた。誰もが固唾を呑んで梓に視線を注いでいる。聞こえる音は、梓が楽器を整える音と、灯されたロウソクがかすかに揺らめく音だけだ。

 ひとつ深呼吸の後。梓の演奏が始まった。その場にいた誰もを引き込む落ち着いた音色。情感のこもった旋律は梓の確かな実力に裏付けられたものだ。しばしの前奏に続いて梓は歌い始める。歌声は少し震えていた。その緊張感が、この曲に対する梓の思いの強さの表れでもあった。歌はいよいよサビに差し掛かり、ついに梓が一番こだわってきた問題のフレーズに到達した。

 唐突に梓の演奏が止まった。

 何事かとみんなが身を乗り出して梓の様子を見守る。初めは、緊張のあまり真っ白になってしまったのだと思った。だが、それは違った。梓は、歌うようにそのフレーズを読み上げた。そう、音程をつけず、あえてそのフレーズを読み上げたのだ。

 あなたがいたから わたしはわたしの道を歩けたんだ

 飛べない羽でも 足元しか見えなくても

 あなたがいる それだけで

 I progress my way to you

 初めはこのフレーズも用意した曲に乗せて歌い切るつもりだった。だが、梓は最後までこの部分の曲の出来に納得が行かなかった。一番重要な部分を納得できない形で伝えることに意味があるだろうか。それが本当に私のやりたいことなのだろうか。悩んだ末に行きついた結論。あえて、梓はこの部分を歌わないことを選んだのだ。梓は唯の真正面まで近づき、唯の両肩にそっと手を掛けた。唯は眼を見開いて梓を注視する。その時、観衆の中から声が発された。

「頑張って、梓ちゃん!」

 その声は憂が発したものだった。梓の目が驚いたように見開かれた。憂は、梓に向かって大きくうなずいた。

「私は、梓ちゃんの見方だよ」

 それですべてを察したというように、梓は憂に向かってうなずき返した。今更ながらに、憂には梓の気持ちなどとっくに見抜かれていたのだと気づく。昔から憂には隠し事はできなかった。

 梓は唯の方に向き直った。もう声を発するものは誰もいなかった。

「先輩達が卒業した後、軽音部の部長になったとき、私は不安でいっぱいでした。先輩達が積み上げてきた軽音部を私が引き継げるのかって。悩んだ私は、唯先輩に電話を掛けたんです。その時唯先輩が私に言ったこと、覚えていますか?」

「なんて言ったんだっけ……?」

 場が一気に弛緩した。

「……やっぱり、覚えていなかったんですね」

「えへへ、わたし、忘れっぽいんだよ~」

「もう、唯先輩はやっぱり唯先輩です」

 そして、梓は仕切り直しというように、一呼吸おいてから続けた。

「唯先輩はこう言ったんですよ。『あずにゃんはあずにゃんのやりたいようにやればいいんだよー』」

「あー、わたしの言いそうなセリフだねー」

「先輩にとってはなんでもないセリフだったのかも知れません。でも、私はその言葉にものすごく勇気づけられたんです。おかげで、先輩達がいなくなった後の軽音部でも仲間との大切な思い出を作ることが出来たんです」

「そっかー、わたしなんかの言葉があずにゃんの役に立って良かったよ~」

「今日、私があなたに想いを伝えることが出来るのだって、あなたのその言葉のおかげなんです。だからどうか、私の想いを受け取ってください」

「あずにゃん?」

 梓の真剣な声色に、その場にいた全員が固唾を呑んで見守る。もう梓の声は震えてはいなかった。

「唯先輩、ずっとあなたのことが好きでした」

 どこからか息を呑む音が聞こえた。それは、唯の発したものかも知れないし、もしくは他の誰かのものかも知れない。

「応えてくれとは言いません。私の想いを聞いてくれるだけで十分だから。……でも、伝えなきゃ後悔するから伝えます。私の我が儘、許してくれますか?」

 この場に声を発する者は誰もいなかった。誰もがただ静かに、唯の返事を待っていた。


おわり

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