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歩くんですの箱 SS置き場

躍動感を表現するにはどうすればいいんだろう……と日々考え中。

【ごちうさSS】記憶よ、もう一度 - Part 21(最終回)

Part 21


 【21】

 眠っているココアさんの周りをみんなで取り囲んでいる光景は、さながらお通夜のようでした。むしろ、今の状況を表すのにこれほど的確な言葉は無いのではないかとさえ思えました。ココアさんはもう二度と記憶を取り戻せないかも知れない、いや、それどころか目を覚ますことさえできないかも知れないのです。

 どんよりと沈んだ空気に包まれた居間にはやや似つかわしくない威勢の良さで、モカさんが入って来ました。

モカ「調子はどう!?……って、あれ?」

ココア兄「ああ、失敗だ」

 ココアさんのお兄さんはモカさんに経緯を説明しました。モカさんはしばらく考え込んでから

モカ「その足りない感情ってのは分からないけど、ココアがその感情を持つことが出来るように働きかけたらいいのよね?」

と言いました。

ココア兄「それが出来れば苦労しない。そもそも、一体何の感情が足りないのかも分からないんだ」

 ココアさんのお兄さんの言葉は、途方に暮れたわたし達の気持ちを代弁していました。それでも、モカさんは

モカ「諦めたらダメ。ココアは一体どんなことに心を動かされて生きてきたのか、それを考えれば答えは出るはずよ」

と言いました。

ココア兄「目も覚まさない状態でどうしようっていうんだ……」

モカ「それはもう、いろいろ試してみるしかないわ。例えば……」

 モカさんはココアさんの口元にパンを差し出しました。

モカ「ココアはうちのパンが好きだった。これを食べれば何か思い出すかもしれないわ」

 モカさんは、ココアさんの唇をこじ開けて隙間からパンを入れました。ココアさんの舌にパンが触れました。その瞬間、パソコンの画面に

SIGNAL IS DETECTED.

の文字が表示されました。

チノ「すごい、反応がありました!」

 差し込んできた希望の光に思わず声を上げたわたしに、モカさんは

モカ「ね?やってみるものでしょ?」

とウインクしました。ですが、その変化を見てもお母様の表情は晴れませんでした。

ココア母「確かにセンサーは働いているみたいね。だけどそれだけよ……」

 確かに、画面には相も変わらず

[WARNING] FATAL ERROR OCCURED.

の警告が表示されています。

モカ「これじゃダメなのかしら」

メグ「待って」

 その時声を上げたのはメグさんでした。

メグ「分かった気がする。今のココアさんに足りていないもの」

チノ「それは本当ですか!?」

 ここにいる全員の視線がメグさんに集まりました。思えば、みんなが途方に暮れているときにメグさんだけが冷静でいて、ただ1人真実にたどり着いたということが今までに何度もありました。普段はほんわかおっとりなのに窮地の時には誰よりも冴えていて、そんなメグさんに救われたのは一度や二度ではありません。ですから、例えメグさんがどんなに荒唐無稽なことを言いだしたとしても、わたしはその言葉を信じるでしょう。

メグ「チノちゃん、よく考えてみて。ココアさんはどんなことを想って生きてきたのか、何を大切にしてきたのか」

 みんな、一言一句聞き逃すまいとしてメグさんをじっと見つめていました。でも、メグさんの言葉はわたし1人に向けられていました。

メグ「思い出して?どうしてココアさんはいなくなったのか。どうしてそうまでして自分の記憶を守ろうと思ったのか」

 ここまで言われて気づかないほどわたしもバカではありません。ココアさんは明るくて、誰とでも打ち解けて、モカさんに憧れていて、だからすぐにお姉ちゃんぶろうとして、わたしだけじゃなくマヤさんやメグさんもすぐに妹にして、でも時には先頭に立ってみんなを引っ張ってくれて……でもそれだけじゃない。ココアさんにとってもっと特別だったものがあるのです。それを守るためにココアさんは姿を消したのです。

 これがわたしのうぬぼれでないならば――。
 ココアさんはわたし「達」の元を離れていったんじゃない。「わたし」の元を離れていったのです。その理由は一つしかありません。記憶消去プログラムは、特定の人物に特別な感情を抱いてしまうことで作動します。ココアさんが最も大切にしていた想い、それこそが欠けているパズルの最後のピースに違いありません。

 なんて陳腐な物語なのでしょう。陳腐で、とてもロマンチックな物語。わたしは、その幕を引くために眠っているココアさんの方へ一歩足を踏み出しました。

メグ「チノちゃん」

メグ「さあ、白雪姫を起こしてあげて」

 メグさんの声に無言で頷いて、わたしはココアさんの耳元に顔を近づけました。

チノ「これを伝えるのは二度目ですね。もしかしたら、ココアさんはもう覚えていないのかも知れないけど……」

 わたしは息を大きく吸い込み、そして、ココアさんの耳元に向かって囁きました。

チノ「ココアさん……大好きです」

 囁いてから、わたしは少しだけ体を起こして、今度はココアさんの口元に顔を近づけました。

チノ「だから、もう起きてください。ココアさん」

 ココアさんの薄く上品な唇が大写しになっていきます。ドキドキと鳴り続ける心臓の音があらゆるノイズをかき消して、目の前にいるココアさんにすべての意識が収束していきます。そして、わたしは柔らかな感触に触れました。唇から伝わってくる熱、それは物理的なものじゃなくて、心の奥の方から湧き上がってくる愛おしさでした。

ココア母「でかしたわ!」

 じっとパソコンの画面を見つめていたココアさんのお母様が興奮気味に叫びました。その声に、ほかの皆さんもわらわらとパソコンの前に集まります。画面上には、次々とアルファベットが現れていきました。

SIGNAL IS DETECTED.
ACCEPTING NEW BOUNDALY CONDITION...

ANALYSYS FINISHED.

FATAL ERROR RESOLVED.

ココア兄「resolved……解決か!やったぞ!」

 お兄さんの一言を筆頭に、居間には歓声が沸き立ちました。画面上には

100% PROCESS COMPLETED.

の文字が表示されています。やっとここまでたどり着いたのだという充実感と達成感、そしてもう悲しい思いをしなくていいんだという安堵、いろいろな想いがない交ぜになって溢れてきました。わたしはいま笑っているのでしょうか。それとも泣いているのでしょうか。

 ココアさんのお母様はキーボードで何かを打ち込んでからココアさんとパソコンとを繋いでいたケーブルを切り離しました。すると、安らかに眠っていたココアさんの目がゆっくりと開かれました。ココアさんの瞳は、わたしがよく知っているココアさんのものでした。

ココア「あれ……わたし……」

チノ「ココアさん!」

リゼ「ココア!」

モカ「ココア~!」

千夜「ココアちゃん!」

シャロ「ココアー!」

マヤ「ココア!」

メグ「ココアさ~ん!」

ココア母「頑張ったね、ココア」

ココア兄「ありがとう、ココア」

 困惑するココアさんにかまわず、みんな口々に名前を呼んでココアさんに飛びついていきます。

ココア「どっ、どうしたのみんな!?」

チノ「皆さん、それだけ積もる思いがあるんですよ」

ココア「ど、どういうこと!?」

 みんながココアさんから離れるころには、ココアさんはぐったりしていました。訳も分からないまま散々もみくちゃにされたのですから当然でしょう。少し申し訳ないという気もしますが、これだけみんなに心配を掛けたココアさんもココアさんです。

 その夜は、ココアさんのお母様が作った手料理を囲んでの大晩餐会になりました。モカさんやお兄さんは浴びるくらい沢山お酒を飲んでいて、見ているこっちまで酔っぱらいそうになるくらいでした。ココアさんの笑顔も久しぶりに見ることが出ました。わたし達は、ココアさんがいなかった空白の半年間の話で盛り上がりました。ココアさんがいて、みんながいる当たり前の日常が戻ってくる。そんな夢のような日々の始まりにふさわしい華やかなパーティは日付が変わるまで続きました。いつしか、ココアさんに夜更かしはダメって言われたことがあったような気がします。でも、こんな日くらいは良いですよね?だって、こんなにめでたい日は一生に一度あるかないかというくらい貴重なのですから。

 * * *

 その後、ココアさんはラビットハウスに戻って再び元気に働いて、学校に通うようになりました。わたしの方も、父に対する誤解が解けて既に家に戻って来ています。はじめのうちは符合しない二つの記憶があることに困惑していたココアさんでしたが、すぐに「まあいっか♪」といかにもココアさんらしい適当さで受け入れるようになりました。リゼさんのお父様とも話をして、かつて交わした「NPASSを止めて」という約束は取り消してもらうことになりました。そのままNPASS反対の団体を畳むことになったおかげで住人たちのNPASSに対する偏見も和らいでいき、シャロさんのようなNPASSによって生まれた人たちへの差別も無くなりました。

 ココアさんの過去は無事「復元」されましたが、ココアさんの中に仕込まれている記憶消去プログラムが無効化されたわけではありません。ですが、ココアさんがこれまで歩んできた過去の記憶も、そしてこれから積み上げていく未来の記憶も、今後はすべてクラウドサーバーに保存されるのだと聞きました。ココアさんのお父様が勤めている大学に大きなサーバーがあって、そこにデータを保管させてもらえることになったのです。仮に記憶消去プログラムが作動したとしても、ココアさんは常にそこのサーバーにアクセスすることで記憶を維持することが出来ます。ですから、もう二度と記憶を失う心配はないとのことでした。

 * * *

 クリスマス直前のとある日曜日、わたしとココアさんはいつかのように教会の前で向かい合っていました。あの時出来なかったことをもう一度やり直すためにわざわざこの場所を選んだのです。時間もあの日とほとんど同じでしょう。ただ1つ違うのは、太陽はもうとっくに沈んでいるということでした。あの日のように夕日の祝福はありませんが、その代わり町中を彩るイルミネーションがわたし達の新しい門出を祝ってくれるはずです。

チノ「ココアさん、わたしには夢があるんです」

 あの日をそっくりなぞるように、わたしは慎重に語りかけました。

ココア「夢?」

チノ「はい。どうしても叶えたい夢です。聞いてくれますか?」

ココア「う、うん……わたしで良いなら聞くよ」

 何もかもがあの日と同じで、目頭が熱くなりそうでした。

チノ「わたしの夢は……」

 ココアさんは、わたしを真正面からじっと見つめています。

チノ「この場所で結婚式を挙げることです。ココアさんと」

 ココアさんは、ふわりと柔らかく微笑んで言いました。

ココア「わたしもだよ、チノちゃん」

 じんわりと熱くなりかけていた目頭が一気に熱を帯びるのを感じました。わたしがずっと聞きたかった答え、それをようやく聞くことが出来ました。嬉しくて言葉も出ないわたしを、ココアさんはしっかりと抱きしめました。全身がココアさんのぬくもりに包まれて脳が痺れそうでした。

 しばらくして、ココアさんはわたしを包み込んでいた手をそっと解きました。それでもまだ、心臓の鼓動が聞こえてくるくらいココアさんは近くにいます。

 まるで空よりも高い場所へ羽ばたいているような心地でした。

 わたしは、ココアさんの綺麗な瞳をじっと覗き込みました。その瞳にはわたしの姿が大きく映し出されていました。

チノ「ココアさん……大好きです」

 わたしは、その瞳に吸い寄せられるように顔を近づけました。

チノ「目をつぶってください」

ココア「うん……」

 ココアさんの目が閉じたのを確認して、わたしも目を閉じました。

 わたしは、ゆっくりとココアさんに近づいていきました。あの日、決して超えることの出来なかった壁はもうどこにもありません。唇に触れる直前に「そういえば、これはファーストキスじゃなかったんだな」という場違いな思いつきがなぜか頭をよぎりました。

 一度だけ触れたことのある柔らかな感触が唇にそっと触れました。けれど、それはあの時とは比べ物にならないくらいに熱くて、全身が溶けてしまいそうなくらいに甘美でした。好きな人とのキスがこんなに気持ちの良いものなんだということを初めて知りました。けれどまだ足りない。もっとココアさんの温もりが欲しい。わたし達はお互いにどこまでも求めあって、気づいたら舌を絡め合っていました。鼻腔をくすぐる甘い匂いはまるで麻薬のようでした。時が経つのも忘れて、わたし達は濃密なやりとりに没頭しました。

 いつしかはらはらと雪が舞い始めました。市街地のイルミネーションを受けて煌めく結晶たちはまるで四季を彩る花々のように色とりどりに美しく、まるでこれから訪れるわたし達のめくるめく毎日を祝福するかのようでした。

おわり

あとがき

まずは読者の皆様に感謝を。この長々とした文章を最後までお読みいただき本当にありがとうございました。

今回のSSは、いわゆる台本形式ではなく地の文を主軸にした構成としました。いろいろなエッセンスを詰め込んだので時の分できちんと説明するようにした方が上手く行くと思ったからです。

それにしても予想以上の文章量となってしまいました。私が過去に書いたSSの中では最も長いのは勿論、過去に書いた中で最長のものと比べても2倍以上のテキスト量となっており、文章の苦手な私からしたら正直言って相当な負担でした()

字数をWordで数えてみると13万字弱……これはラノベ1冊分に相当する字数です。というか、ラノベ作家はこの字数の作品を年に何冊も書いているのか。やっぱプロってすごい!と思わざるを得ません。

横道に逸れましたが、私の場合どうも後半に行くに従って一度に書ける文章量が減って行ってしまうのです。最後の方は1日で500字しか進まないとかそんなペースになっていました。これじゃ小学生の作文と変わりませんね(汗)

さて、今回の作品はちょっと重い話もあったかと思います。初回の触れ込みでは
「ごちうさのキャラクターの可愛らしいイチャラブを楽しんでいただければと思います。」
などと書いたのですが、あれはミスリードです←
とはいっても、「5年前のできごと」の時とは違い別に暗い話が書きたかったわけではありません(いや、あの話も暗い話を書こうというつもりで書いたわけではありませんが)。この話のアイデアはもともと、ココアの暗算力はいくらなんでも高すぎだよなぁ、と思ったことから生まれました。計算力が異常、ということは、実はココア=ロボットなんじゃね?と。そこを題材にしてどんな話にしようかと考えた結果なぜかこうなったのです。ですから、シャロ=万能細胞から生まれた、というのはココアの話に持って行くための布石として考えたお話です。なんだ、酷いじゃないか!と思われるかも知れませんが、別に人間はお母さんの子宮の中から生まれて来る必要は無いと思うんです。

そもそも、万能細胞から子どもを作ることで少子化問題を解決しよう、というアイデアは私自身前々から考えていたことだったりするんですよね。実現できればあっという間に問題解決です。ただ、やはり技術的に難しい。iPS細胞技術が発達すれば出来るようになるんですかね?よく分かりません。仮に実現したとしても何十年も先になるでしょうから、その頃には時代も変わってわざわざ出生率を上げなきゃいけないような時代でもなくなっていそうです。

またまた横道に逸れてしまいました。とにかく、どういう経緯でこのお話が出来たのか、ってことと、思ったより長くなってしまって書くのに苦労した、というお話でした。

改めて、最後まで読んでいただきありがとうございました。今後の執筆予定ですが、多分しばらくSSは書かないんじゃないかなぁと思います(こっちでリレー物を書くくらいかな)。二次創作物の難しさは、やっぱり元になるキャラがいるのでその個性を引き立てて物語を作らないといけないところだと思います。そういうのが得意な人の文章を見ると本当に流石だなぁと思います。私は苦手です。なので、これからは小説家になろうの方で小説を上げる方の活動を中心にやっていくつもりでいます。もし興味があれば暇なときに見てやってください。

以上です。tamantrainでした。

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