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歩くんですの箱 SS置き場

躍動感を表現するにはどうすればいいんだろう……と日々考え中。

【ごちうさSS】記憶よ、もう一度 - Part 18

更新が遅れたことをお詫び申し上げます<m(__)m>

Part 18

 【18】

リゼ「で、実際どうしたら良いんだろうな?ココアの記憶を戻すには」

 町に向かう電車の中でリゼさんは言いました。

チノ「それは何とも……何にせよ保登さんの協力を得る必要はあると思います。まずはココアさんに会って、それからココアさんをご実家の方に連れていきましょう」

リゼ「確かに。研究所でココアのメンテナンスをやってた保登さんのアドバイスは必要だよな」

メグ「いろいろお話を聞けばいいアイデアが浮かぶかも」

 住宅地に少しずつ高い建物が混じり、やがてお城のように何本も突き立った高層ビルの群れが見えてきました。

マヤ「わあ、摩天楼だぁ!」

シャロ「都会ってすごいところね……」

 見慣れない都会の景色に感嘆の声が沸き起こります。まもなく列車はゆるやかに速度を落とし、巨大ターミナルのホームへと進入していきました。

リゼ「いよいよだな」

マヤ「なんかわくわくして来た!」

チノ「遊びに来たわけじゃないんですが……」

千夜「まあでもせっかくだし少し回ってみるのも良いんじゃない?」

 ホームに降り立ってまず驚いたのは人の多さでした。人の隙間をすり抜けるためには、爆弾をよけるゲームでもプレイしているかのように右に左によけながら進まなければなりませんでした。

マヤ「チノ!」

 いきなり腕を掴まれて振り向くと、マヤさんの温かい手がわたしの手に繋がれていました。

マヤ「これならはぐれないでしょ」

 マヤさんのもう一方の手の先にはメグさん、さらにその先には千夜さん、シャロさんがいました。わたしたちは、リゼさんを先頭に数珠つなぎになって人ごみの中を進みました。

シャロ「都会って恐ろしいところね」

 確かに。こうでもしないとはぐれそうになるなんてなんてなんて怖いところなのでしょう。

千夜「でも、こうやってみんなで手を繋げば安心だわ♪」

 駅の外に出ても相変わらず人が溢れかえっていました。スクランブル交差点の信号が青になるたびに人々がひしめき合いながら移動していきます。

リゼ「地図によるとこっちだ」

 先頭に立つリゼさんについて、わたし達はココアさんのお兄さんが働いているという法律事務所を目指しました。

 大通りから脇道へと入ると一気に喧騒が遠ざかりました。それでも絶えず人が行き交ってはいましたが、大通りと比べればその人数はだいぶ少ないようでした。少し進んだところでメグさんが立ち止まりました。

メグ「あれじゃないかな?」

 メグさんの指さす先には青い看板が掲げられていて、白い字で法律事務所の名前が書かれていました。

リゼ「そうだな、間違いない」

 事務所は壁面を白いタイルが覆う雑居ビルの3階にありました。わたし達は、ちょうど1階に止まっていたエレベータで上まで上がりました。法律事務所の入り口はエレベータを下りたすぐ目の前にありました。ガラス戸には青い字で事務所の名前が書かれていて、白い看板がつり下げられていました。看板には「本日休業」の文字が書かれていました。

リゼ「休業?せっかくここまで来たのについてないなぁ」

千夜「そうね……。でも、考えてみれば今日は日曜日だものね」

リゼ「あー、そういうことか……」

チノ「慌てて行動しすぎてしまいましたね」

 はるばるここまで出てきても事務所に人がいないのではどうしようもありません。

シャロ「どうするのよ……ここまで来て引き返すなんて嫌よ」

マヤ「うん。ここまで来て出直すなんて無しだな」

リゼ「そうは言ってもなぁ……。学校もあるし一旦は戻らないと」

 リゼさんの言葉にみんなの表情は曇るばかりです。

メグ「別に明日一日くらいは休んでも良いんじゃないかな。どうせ平日に来なきゃいけないなら、放課後だけじゃ時間的に厳しいよ」

 みんな、誰かがそう言い出すのを待っていたのでしょう。メグさんの言葉一つでみんなの表情がぱっと晴れました。

リゼ「それもそうか。よし!じゃあ明日までこの町に泊まることにしよう」

千夜「いいわね♪そういえば、みんなでお泊りなんていつ以来かしら?」

 反対意見はなく、メグさんの意見は即決されました。ですが、1泊するなら考えないといけないことがあります。

チノ「宿はどうしましょう?」

リゼ「それはホテルを当たって空いてるところを探すしかないな」

??「その必要はないさ」

 みんなの心が宿探しに向かおうとしたところで、背後から突然声が掛かりました。

リゼ「誰だ!?」

 リゼさんは素早く拳銃を取り出して身構えました。その銃口の先には若い青年が立っています。背が高くいかにも好青年といった出で立ちで、その笑顔からは爽やかさがにじみ出ていました。

??「おっと、いきなり物騒だね。平和な法治国家にそんなものは似合わないよ。ましてここは法律事務所の前だ」

 青年はあくまで爽やかな表情を崩さず、にこやかに両手を挙げる仕草をしました。

シャロ「リゼ先輩、ここは穏便に……」

 シャロさんが少し困ったようにリゼさんを制すると、リゼさんは素直に銃を下ろしました。

リゼ「そ、そうか。すまん、護身術を仕込まれているとどうしても身構えてしまうんだ」

??「まあいい。君たちはこの事務所に用事があって来たのかい?」

チノ「はい。ここに知り合いが働いているんです」

??「そうか。なら僕が連絡を取ってあげるよ。僕もこの事務所で働いている弁護士の1人だからね」

リゼ「怪しいな。まずは名乗ってもらおうか」

??「随分と警戒されちゃったねぇ。いや、用心深いのは良いことだけど。僕は保登、ここの弁護士で得意分野は労使関係。信じられないなら個々の社員証を見せても良いよ」

リゼ「いや構わない。保登……保登!?もしかして保登さんなのか!?」

保登「そうだけど……あれ、僕、君たちと会ったことあったっけ?」

チノ「あの……わたし達はまさに保登さんを探していたんです!保登ココアさんのお兄さんでいらっしゃいますよね?」

保登「うん、そうだよ。あ、もしかしてココアのお友達かな?立ち話も難だし、事務所に入ろうか。お茶くらいは出すよ」

チノ「いいんですか?」

 事務所が休みと分かったときはどうなることかと思いましたが、何とも運が良かったようです。わたし達は事務所の応接スペースに迎えられ、そこで話をすることになりました。

マヤ「あー、ふっかふかだぁー」

 事務所に入った途端、マヤさんは遠慮なくソファーに飛び込みました。

チノ「行儀悪いですよ」

マヤ「えー、でも気持ちいいよ。チノもやってみなって」

 そう言いながらマヤさんはますますソファーに深く沈み込んでいきます。

保登「遠慮なくくつろいでね……って、もうくつろいでるか」

 紅茶とクッキーをお盆に乗せて持ってきた保登さんも思わず苦笑の堕落ぶりでした。

保登「それで、君たちはココアに会いに来たと」

 事情を説明すると、保登さんは腕を組んで考え込むように言いました。

保登「そうやすやすと頷くわけにはいかないよ。君たちに会ったらココアはまた記憶を失なうかも知れない」

チノ「それも承知の上で、どうしてもココアさんに会いたいんです」

保登「うーん……僕は天々座さんの元から離れてうちに来たばかりの頃からココアを知ってる。当時僕はまだ小さくて、一緒に写真に写るとまるで僕は年の離れたココアの弟だった。だけど、ココアは記憶をすべて失っていたから知能は赤ん坊みたいなもんで、実際は僕の方が兄貴だったんだ。いや、ここで思い出話に耽るつもりは無いけれど、とにかく僕とココアの間にもそれなりに積み上げてきたものがあるし、それは父さん母さんや弟だって一緒さ。ココアが記憶を失うってのはね、君だけの問題じゃないんだよ」

チノ「ココアさんの記憶は後から必ず取り戻しますから」

保登「へー?なにか当てがあるのかい?科学者の弟に聞いたら、記憶のバックアップがどこにも残ってない以上一度失った記憶は戻って来ないって言ってたけど」

チノ「消えたと思っていても、ほんのわずかに記憶が残っているかも知れません。何とかしてそれを思い出させることが出来れば」

保登「SSDからの復元はまず最初にやってみたよ。まっさらで何も残ってなかったみたいだけど」

チノ「でも、諦めなければ何か方法は……」

保登「君、どうしてそこまでココアに会うことにこだわるのかな。そもそも、ココアが君たちの元から離れて僕のところに来たのはココア自身が望んだからだ。これ以上記憶を失いたくないからと。申し訳ないけど、君たちのやってることはココアの決意を踏みにじることになる」

チノ「ちょっと待ってください。どこかおかしくありませんか?」

保登「何がだい?」

チノ「ココアさんが何も覚えていないというなら、なぜココアさんは自分が記憶を失うことを知っていたのですか?ほんの少しだとしても以前に記憶を失った時のことを覚えていたからじゃないんですか?」

保登「違う。ココアは本で読んで知ったと言っていた」

チノ「本で?そんなことが書いてある本が……?」

メグ「心当たりはあるよ。わたし、ココアさんの部屋にあった本を借りたことがあったよね。借りたうちの1冊に記憶消去プログラムのことも書いてあった」

保登「そういうことだ。ココアが自分に記憶消去プログラムが備えられていることを知ったとしても何も不思議はない」

チノ「そんな……」

 ココアさんの記憶を取り戻す方法なんてもはやどこにも無いのでしょうか。いや、弱気になってはいけません。諦めてしまえばそこで終わりです。

保登「そもそも、君はどうしてそこまでココアの記憶を取り戻すことにこだわるんだ?触らぬ神に祟りなし。君たちが接触しなければココアも今のまま記憶を持ち続けていられる」

チノ「一番良いって思える結果を追い求めるのはおかしいことですか?諦めなければ失くした記憶だって取り戻せるって思います。研究所時代や天々座さんと暮らしていた時の記憶も含めて、ココアさんが全部を思い出すことが出来たなら、それが一番だって思うんです」

保登「そうかも知れないが、どうにもならないことだってあるんだよ。熱い気持ちで理想を追うのもいいけど、時には冷静さだって必要だからね」

チノ「そんなのやってみなきゃ分からないです」

保登「やれやれ。結局君はココアに会いたいだけだ。その先のことなんて何も考えちゃいない」

チノ「もちろんココアさんには会いたいです。でもそれだけじゃありません!」

保登「ほう?」

チノ「わたしはココアさんが大好きです。だから、例えココアさんが記憶を失ったとしたって、何度でもココアさんとの出会いを一からやり直すことが出来ます。きっとわたし一人だったらそうしていたでしょう。でもそれじゃ意味がないんです。だって、わたしにはココアさんの他にも大切な仲間がいます。わたしのためだけじゃない、大切なみんなのために、ココアさんには何としても全部の記憶を取り戻してもらわなきゃいけないんです」

保登「そうかい。君の想いは分かった。だけど、そのためのプランが無いとどうしようもないよ」

チノ「ココアさんに会って、ココアさんの記憶にゆかりのありそうなところを見て回るっていうのはどうですか?もしかしたら何か思い出すかもしれません。それからココアさんのお母様にも相談して、どんなことをすれば良いか考えながらいろいろやってみます」

保登「それじゃあノープランと変わらないよ。君たちの熱意は確かに評価したい。でも、僕としてはココアの記憶を無意味に奪う結果を許すわけにもいかないからね。君たちは遠くから来たんだろう?遅くなると大変だ。そろそろ帰った方が良い」

チノ「そんな……」

 これ以上話を聞く気はない、ココアさんのお兄さんの目はそう言いたげでした。ですがこのまま帰ったら終わりです。なんとかしてココアさんのお兄さんの気が変わるようにしなければ……。でも、もう言葉は見つかりません。途方に暮れたわたしは後ろにいるみんなの方を振り返りました。誰でもいい、この状況を突破する一言を下さい!けれど、途方に暮れているのはみんなも同じでした。何か言わなきゃ、でも何を言えばいいのでしょう?誰も正解にたどり着けないまま、沈黙の時間だけが過ぎていきました。

保登「どうしたんだい?帰らないの?君たちが帰らないと僕も事務所を出れないんだけど」

 保登さんはいよいよわたし達を追い立てようとしています。今すぐココアさんの記憶を取り戻すための具体策を思いつくことが出来なければ、何もせずただ事務所を追い出されただけで終わりになってしまいます。

 そのとき、窓の外からザー、というノイズのような音が聞こえてきました。ココアさんのお兄さんは慌てて窓際に駆け寄りました。

保登「雨だ……。参ったなー、傘なんか持ってないよ」

 ココアさんのお兄さんは困った様子でした。ですが、わたしは心の中でガッツポーズをしました。なんと運がいいのでしょう。突然の雨ではさすがにわたし達にいますぐ帰れとは言えないはずです。

 とはいえ、時間稼ぎは出来たもののこの時間で何か名案を思い付くことが出来るのかというのは疑問ですが……。そんなわたし達をよそに、ココアさんのお兄さんはぽつりと独り言のように呟きました。

保登「ココアのあれがあればこれくらい予測できたんだろうけどなぁ」

 それは、本当に何気なく発した一言だったのでしょう。ですが、メグさんは興味を持ったようでした。

メグ「予測?どういうことですか?」

 食いつかれると思っていなかったのか、ココアさんのお兄さんは一瞬意外そうに目を見開きましたが、すぐに落ち着き払って話し始めました。

保登「いや、昔母さんが遊びでココアに天気予報のプログラムを乗せたことがあったんだよ。あれはすごかった。テレビの予報では1日晴れって言ってた時でも、ココアは夕方ににわか雨が降る、なんて言い出してね。本当にその通りになった」

 あのココアさんがそんなにすごい天気予報を?とても予想がつきません……。

メグ「天気予報っていったら、すごく演算能力が高くないとできないと思うんですけど」

保登「そうだね。ああ見えても、ココアに搭載されてるハードには量子演算っていうのが使われていて非常に高い計算力があるんだ」

 量子演算、聞きなれない言葉ですが……メグさんにとってもそれは同じだったのか、彼女は煮え切らない様子で考え込み始めました。

メグ「うーん……」

保登「ああ、ちょっと難しい言い方だったかな。要はすごく頭のいいコンピュータだってことだよ」

メグ「ああいえ、それは分かるんですけど……」

 急にしどろもどろになり始めたメグさんの様子を見て、千夜さんはニヤッと不敵な笑みを浮かべました。

千夜「メグちゃん、何か思いついたのね?」

リゼ「思いついたって何を!?」

 思いついた……ここで千夜さんが不敵に笑うような思いつきと言ったら……。

チノ「まさか……ココアさんの記憶を取り戻す方法ですか!?」

シャロ「本当に!?すごいじゃない!」

 わたし達の期待の眼差しが一気にメグさんに集まります。メグさんは、一つ一つの言葉をかみしめながら話しを始めました。

メグ「必要なデータを与えてあげて、そのデータから計算をすれば明日の天気を予想できる……それって、データを揃えて、ちゃんとした物理の理論式を解かせれば未来を予測できるってことになりませんか?」

保登「未来予測?なるほどねぇ……確かに理屈の上では出来るんじゃないかな。もっとも、それをやるには膨大なデータと正確な理論、それにそれらを演算できるだけの高い計算能力が必要だろうけど」

メグ「それだけ精度よく天気を予想できるなら、ココアさんはそれだけの計算力を備えてるってことです。そして、未来の予測ができるなら、同じように過去だって再現することが出来るんじゃないでしょうか」

保登「まさか……ココアが今置かれてる状況のデータから、過去に起きたことを計算で導き出そうってのか!?」

メグ「そういうことです」

マヤ「どういうことだよ?さっぱりついていけないんだけど」

 マヤさん、その気持ちよく分かります。ココアさんのお兄さんにはどうも伝わっているようなのですが……。

メグ「ほら、例えば、13、21、34、55って数字が並んでたら、わたしはその次の数字を当てることが出来る。同じように、13の前の数字だって当てられる」

マヤ「いや分からないけど」

リゼ「55の次は89、13の前は8……そういうことか。つまり、現実世界の法則を数式化して計算させれば、これから先起こることも、それどころか今より前に起こった出来事すらも導き出せるってことなんだな」

 ようやく分かってきました。13+21=34、21+34=55、だったら55の次は34+55で89、逆に、13の1個前は□+13=21になる数だから8……こんな風に法則性を見つけ出せれば一個前の数字や後ろの数字を求められるのと同じように、物理の法則にしたがって計算をすれば、まるで天気予報みたいに過去や未来を知ることが出来る――。

保登「確かに面白い。実際にやろうとするととても難しいだろうが、それでもやってみる価値はあるかも知れない」

チノ「本当ですか!?」

保登「中学生でこんな方法を思いつくなんて素直に感心したよ」

チノ「やりました。さすがですメグさん!」

メグ「そんな褒めないでよぉ~。恥ずかしいよ」

 ほんわかしているように見えていつも本質を見抜いていて、わたし達は何度もメグさんに助けられました。そんな誇るべき友達が、ちょっとだけ頬を赤らめているのがいかにも中学生の女の子みたいでなんだか新鮮でした。

保登「すぐに母さんに連絡してみよう。ココアについて一番詳しいのは母さんだからね。計画を実行するには協力してもらわないと」

 そう言って、ココアさんのお兄さんはすぐにご実家に電話を掛けました。お兄さんの言葉からして、お母様は計画の実行を渋っているようでした。ですが、お兄さんが粘り強く説得を続けてくれて、最後にはオーケーが出たことをサムアップで伝えてくれました。わたし達は、すぐにココアさんを連れてお母様の元へと向かうことになりました。

Part 19に続く

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