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歩くんですの箱 SS置き場

躍動感を表現するにはどうすればいいんだろう……と日々考え中。

【ごちうさSS】記憶よ、もう一度 - Part 17

Part 17

 【17】

 ココアさんの居場所を聞いたわたしたちは、いそいそと天々座氏の家を後にしました。ココアさんは兄が勤める弁護士事務所で事務員をやっているとのことでした。弁護士事務所がある都会の町まではこの町から特急列車で1時間もあれば着くとのことだったのですぐに向かうことにしました。

 急ぎ足で川沿いの道を歩いていると、向こうから何やら言い争う声が聞こえてきました。

「早まらないで!どうか踏みとどまって」

「放して!あんたには関係ない!」

 近づいてみると、女の子が欄干から身を乗り出してじたばたしていました。その女の子の背後には女性が立っていて、胴体に両腕を回して必死にその子にしがみついています。どうも女性は川に飛び降りようとする女の子を必死で止めようとしているようでした。ですが、女性が腕の力を強くすればするほど女の子は激しく抵抗しています。

 最初は野次馬気分でした。ですが、実際にはそう呑気にしている場合ではありませんでした。

リゼ「シャロ!」

 最初に事態に気付いたリゼさんが慌てて女の子の側へと駆け寄りました。女性の手の中でじたばたしていた女の子はぴたりと動きを止めてわたしたちの方を振り向きました。

チノ「シャロさん!?」

千夜「シャロちゃん……!」

 リゼさんに続くようにして私たちもシャロさんの方へと駆け寄りました。

リゼ「やめるんだシャロ!」

 リゼさんは叫びながら近づき、先にいた女性と協力してシャロさんを欄干から降ろしました。シャロさんは抵抗しようとはせず、欄干から降りた後そのまま地面にへたり込みました。

千夜「どうしてこんなことを……?」

 上ずった声で問いかける千夜さんに、シャロさんはうなだれるばかりで答えようとはしません。かわりに聞こえてきたのはすすり泣く音でした。その嗚咽はごく小さいものに始まり、だんだんと大きくなっていって、最後には子どもみたいにわんわんと泣きだしました。堤防を破って溢れだした感情の奔流が大粒の涙となって地面に水たまりを作っています。

 NPASSに対する偏見と差別、そんな敵意と悪意がこれほどまでにシャロさんを追い詰めていたという現実を目の当たりにして――わたしは今、1つの決意を胸にこぶしを強くにぎりしめました。

 向けられた無数の刃から彼女を守るように。
 開いた傷口をそっとふさぐように。
 リゼさんはすぐ横にしゃがみこんでその小さな体を優しく抱きしめました。

シャロ「リゼしぇんぱぁああああああああああい」

 思いの丈をぶつけるように、シャロさんはリゼさんの胸に顔をうずめて涙が枯れるまで泣き続けました。

「もう大丈夫そうですね」

 傍でじっと見守っていた女性がそう言いながら立ち上がりました。わたしは、飛び降りようとするシャロさんを止めてくれたお礼を言おうとしました。

チノ「ありがとうございました。青山さん……って、青山さん!?」

 動揺していて今まで気づいていませんでした。まさかの知り合いだったことに驚きで心臓のドキドキが止まりません。

チノ「もう、早く言って下さい。心臓に悪いじゃないですか!」

青山「だってタイミングがありませんでしたから」

チノ「それもそうかも知れませんが……」

マヤ「というか、今まで気づいてなかったの!?」

 なんだ、マヤさんはとっくに気づいてたんですか。

メグ「そんなのすぐに気づくよ~」

 ……どうやら、気がついていなかったのはわたしだけみたいです。

青山「たまたま通りかかってみたらシャロさんが欄干を乗り越えようとしていたものですから。私の方こそお役に立てて良かったです」

チノ「いえいえ、青山さんがいなかったらどうなっていたか」

メグ「本当にありがとうございました」

 改めてお礼を言って、わたしたちは青山さんを見送りました。

 * * *

 シャロさんの様子が落ち着いたタイミングを見計らって、わたしは先ほど固めた決意を皆さんにお話しすることにしました。

チノ「ココアさんの記憶を取り戻しましょう。これから失う分だけじゃなく、今まで失った分もぜんぶ」

リゼ「全部って……親父との記憶も含めてってことか?」

チノ「そうです。NPASS反対運動を止めるには、ココアさんにリゼさんのお父様との約束を思い出してもらうしかありません」

 無謀な提案であることは分かっています。それでも、すべてを解決できる道がそれしかないのならやってみるしかないとわたしは思います。ですが、同意してくれる人がいるかどうか……不安になりながらわたしはみんなの顔を見回しました。

マヤ「わたしは賛成だよ。要は、それが出来ればココアはもう何も忘れなくて済む。NPASS反対運動も止まる。ぜんぶ解決ってことだよね?」

チノ「はい、そういうことになります」

 わたしは心の中でほっと溜息をつきました。誰にも分かってもらえなくてもしょうがない、そう思っていたのに。たった一人でも分かってくれただけでなんて心強いのでしょう。一方で、懐疑的な意見ももちろん上がってきました。

リゼ「それが出来ればベストなのは分かるけどさ……」

メグ「どうやってやるかが問題だよね。そもそも、記憶のデータなんてどこにも残ってないはずだし」

リゼ「もし残っていたら保登さんあたりがとっくに復元してそうだもんな」

チノ「リゼさんやメグさんの言うことも分かります。でも、わたしは諦めたくないんです」

 理屈の上ではリゼさんやメグさんの言い分に軍配が上がるでしょう。わたしの言っていることはただの感情論で、ご都合主義で、子どものわがままでしかありません。それでも方法は必ずあるはずだと、みんなで探せば必ず見つかるはずだと、そう信じられたならきっと何かが変わるはずです。

千夜「出来ないって諦めるのは早いと思うわ。必ず方法を見つけましょう!」

チノ「千夜さん……。皆さんも、どうかお願いします。わたし1人の力ではダメなんです。皆さんの力が必要なんです!」

 わたしは頭を深く、深く下げました。そして次にわたしが聞いたのは温かい言葉の数々でした。

シャロ「分かったわ。諦めるのは、やれるだけのことをやってからでも遅くはないものね」

リゼ「確かにその通りだよな。まずはやってみないと」

メグ「みんながそういうならわたしも賛成だよ~。どこにどんな可能性が転がってるかなんて分からないけど、みんなで力を合わせたら見つけられるかも知れないよね」

チノ「皆さん……ありがとうございます……!」

 ずっと一緒にいて、どんなに仲のいい仲間でも、きっとほんの少しだけ通じ合えていない部分があったのです。シャロさんが孤独になったのも、ココアさんがいなくなってしまったのも、結局はそんなほんの少しが積み重なった結果なのでしょう。これでやっとわたしたちは本当の意味で1つになれる、そんな予感がしました。

Part 18に続く

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