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歩くんですの箱 SS置き場

躍動感を表現するにはどうすればいいんだろう……と日々考え中。

【ごちうさSS】記憶よ、もう一度 - Part 14

Part 14

 【14】

 目を覚ますと、視線の先には見知らぬ天井が広がっていました。

チノ「あれ……?」

 ぼやけた目をこすってみても景色が変わる様子はありません。

チノ「そういえば……千夜さんの家に泊めてもらっていたんでした」

 わたしは体を起こし、ふらふらとふすまを開けて部屋の外にいました。廊下の先からあずきを煮る甘い匂いが漂ってきました。その匂いに誘われてわたしはよたよたと廊下を進みました。

千夜の祖母「おはよう、早いねえ」

チノ「おはようございます」

 そういえば今は何時なんでしょう。気になって見回してみると、壁に掛かった時計は六時前を指していました。

チノ「いつもこの時間から起きてるんですか?」

千夜の祖母「そうさ。和菓子屋ってのは朝からせにゃいけない仕込みがたーんとあるんだよ」

 なるほど、台所にはあずきが入った大鍋だけではなく白玉やらお餅やらいろんなものがあちこちに並んでいました。

千夜の祖母「眠れなかったかい?」

チノ「いえ、どうしてですか?」

千夜の祖母「そりゃこんな時間に起きてんだからそう思うじゃろ」

 言い方こそぶっきらぼうですが、わたしのことを心配してくれているのがひしひひしと伝わってきました。昨日、わたしがいきなり転がり込んできたときもこの人は細かい事情を聞かずに泊めてくれたのです。わたしはその優しさにひたすら頭の下がる思いでした。

 七時過ぎに、寝ぐせで髪を乱した千夜さんが寝ぼけ眼をこすりながら起きてきました。

千夜「あれー、チノちゃん……?」

 どうやら、千夜さんはまだ寝ぼけているようでわたしがどうしてここにいるのか分かっていないようでした。

チノ「おはようございます」

千夜「うん、おはよ……そっかぁ、チノちゃんお泊りしてたんだったわねぇ」

 朝ごはんは白米に白菜のお浸し、お味噌汁、筑前煮という純和風の献立でした。お味噌汁を啜ると、体の芯から温まっていくようでした。

チノ「美味しいです」

 わたしが素直な感想をこぼすと、

千夜の祖母「バカにすんなってんだ。食事を出す店の店主やってんだからわしゃプロだよ」

とお叱りの言葉が返ってきました。千夜さんはにこにこしながら

千夜「これでも喜んでるのよ」

と言いました。

チノ「そ、そうなんですか?」

 言われて千夜さんのおばあちゃんの方を振り返ると、彼女はそっぽを向いて

千夜の祖母「余計なこと言うんじゃないよ!」

と吐き捨てました。わたしは、それ以上食事の感想を言うのはやめにして箸を動かすことに専念しました。

 * * *

チノ「ココアさんが危ない以上、早く見つけ出さないといけません」

 わたしは千夜さんに相談を持ち掛けました。

千夜「そうね。でもどうやって……」

チノ「とにかく探し回るしかありません。現状ではそれ以外の手は……」

 それは、この半年間わたしがずっとやり続けてきたことでした。心当たりのある場所を中心に町中を探し回ってきましたが、手がかりすらつかむことが出来てはいません。千夜さんもそのことはよく知っています。そんな方法では見つからない、内心そう思われていてもおかしくはありません。でも、千夜さんは目を伏せて

千夜「分かったわ。みんなにも協力してもらいましょう」

と言ってくれました。

 ココアさんの捜索は千夜さん、メグさん、わたしの3人とリゼさん、シャロさん、マヤさんの3人に分かれて手分けして行うことになりました。皆さんはわたしたちの呼びかけに二つ返事で協力してくれました。

 わたしたちは、普段あまり見回ることのない駅の反対側を見回ることになりました。

千夜「こっちの方は来たことあるの?」

チノ「正直、ほとんど来たことはないです」

 ラビットハウスのある通りにはいろんなお店があって、一通りのものはたいてい揃いますし、お洋服のお店や少しおしゃれなお店もあって休日に見て回るだけでも楽しめます。少し歩いていけば公園もありますし、学校も歩いていける範囲のところにあります。駅前まで出なければならないとしたら映画館に行く時くらいでしょうか。それでも駅の反対側まで行く必要はありません。

 ですから、ここまで来るのはほぼ初めてのことでした。

メグ「どこから探す?」

チノ「そうですね。ほとんど来たことがありませんから当たりをつけようと思ってもなかなか難しいですし、商店街のあたりから順番に見ていきましょうか」

 日曜日の商店街はとても賑わっていました。さすがに駅前というだけあって、ラビットハウスの辺りとは人の数が一桁違うようでした。

千夜「これだけ人がいるんだもの。案外ココアちゃんがお店の陰からひょこっと現れるかも知れないわ」

 雑踏の隙間を縫うようにして、わたしたちはくまなく目を凝らしながら進んでいきました。お肉屋さんの建物の隅、アンティークショップの家具の裏側、お土産屋さんの2階の窓、郵便局と時計屋さんに挟まれた狭い路地、思いつく限りのところを回ってみました。人波にもまれ続けたせいもあって、太陽が空の真上に来る頃にはわたしたちはもうへとへとになっていました。

千夜「そろそろお昼にしましょうか」

チノ「そうですね。お腹が空きました」

メグ「腹が減っては戦が出来ぬ、って言うしね」

 千夜さんの一言で、わたしたちは近くの洋食屋さんに入ることにしました。

 お昼ご飯を食べ終わった後、わたしたちは一度商店街から出て駅前のロータリーに戻りました。噴水の脇にあるベンチに座りながら、千夜さんは言いました。

千夜「もう商店街は探しつくしたと思うのよ。午後からは大通りの方を中心に探してみない?」

 駅の正面に延びる大通りの方を探してみよう、千夜さんはそう提案しました。

チノ「そうですね」

メグ「うん、がんばろー!」

 わたしとメグさんも千夜さんの提案に同意しました。

 大通りの歩道は広く、商店街を歩いていた時のような窮屈な感じはありませんでした。通り沿いにある建物を中心に覗きながら進んでいくわたしたちの横を何台もの人力車が通り過ぎていきました。大通りはどこまでもまっすぐ続いていました。気が付けば建物もまばらになり、道沿いにある施設はガソリンスタンドか大きな駐車場のあるお店が中心になってきました。前を見ると、同じような景色がずっと遠くの山並みに向かってひたすら続いていました。

メグ「この辺りまでかな」

チノ「そうですね」

 近くにある横断歩道を渡って、わたしたちは向かい側の歩道へと移動しました。

 わたしたちは、通りを遡りながら来た時と同じように沿道沿いの建物の中を覗き込んではココアさんがいないことを確認する作業を繰り返しました。いつしか日は西に傾き、目の前には3つの影法師が長く伸びていました。

 1日探索しても、ココアさんの痕跡さえ見つけることは出来ませんでした。

 徒労感がどっと押し寄せてきました。

チノ「リゼさん達の方はどうだったのでしょうか」

千夜「そうね……見つかってたら良いんだけど」

 わたしと千夜さんは駅に向かって歩き始めました。ですが、そんなわたしたちをメグさんの声が背後から呼び止めました。

メグ「チノちゃん、まだ探していない場所があるんじゃないかな?」

チノ「まだ探していない場所?」

 正直心当たりがありました。ココアさんがいなくなったあの日以来、わたしはその場所をずっと避けてきました。

メグ「手がかりがあるとしたらあそこだよ」

千夜「そうね……やっぱり一度見に行ってみるべきだと思うわ」

 2人の言っていることが正しいということは頭では分かっていました。でも、わたしの足は棒のようにすくんでその場から動こうとはしませんでした。

 そのとき、わたしの両手が温かいもので包まれました。

メグ「怖いのは分かる。でも大丈夫だよ、わたしたちが一緒だから」

千夜「そうよ、チノちゃんは1人じゃない」

 見ると、わたしの右手にはメグさんの手が、左手には千夜さんの手がつながれていました。暗く冷たいわたしの心に一筋の光が差したような気がしました。

チノ「2人とも、ありがとうございます」

 2人に手を引かれ、わたしは一歩を踏み出しました。

 教会の鐘は、あの日とまったく同じように西日を受けてまばゆく光り輝いていました。時を止めたようにただ静かにそびえる尖塔も、あの日と少しも変わりはしませんでした。

メグ「教えてくれる?この場所で何があったのか」

 この場所に来たら多分聞かれるだろうと思っていましたが、その予想は当たりでした。ココアさんがこの場所でいなくなったことまではすでに皆さんにお話ししていましたが、告白の話はまだ誰にも話したことが無かったのです。わたしは、ついにこの場所で起こった一部始終を打ち明けることにしました。

 * * *

 結局、リゼさん達のチームもココアさんの痕跡を見つけることは出来ませんでした。

リゼ「ココアはどこかに閉じ込められてるんだろう。今日みたいに外から建物の中を覗いてみるだけじゃ見つけるのは難しいかもな」

メグ「そもそもこの町にいるのかどうかも分からないし……」

 リゼさんやメグさんの言うことは最初から分かっていたことではありました。こうして1日掛けて探し回ってみるとその事実がずっしりとのしかかってきました。

千夜「ココアちゃんがたまたま外に出ている瞬間にたまたま遭遇でもしない限り見つからないわよね……」

 溜息が夕焼け空の下にもやを作りました。いち早くココアさんを見つけ出さないといけない、分かってはいても、もう手遅れなのだという諦めの気持ちが心の中に鉛のように広がっていきました。

Part 15に続く

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