忍者ブログ

歩くんですの箱 SS置き場

躍動感を表現するにはどうすればいいんだろう……と日々考え中。

【ごちうさSS】記憶よ、もう一度 - Part 13

Part 13

 【13】

 父は、新聞を読むときどの面もじっくり読み込む人でした。そうでなければこの記事自体見つけることは難しかったでしょう。問題の記事は今朝届いた新聞の社会面の片隅にひっそりと載っていました。

「NPASS研究所で研究不正、遺伝子制御技術に関する論文取り下げ」

 記事を読んだ父は

タカヒロ「だからNPASSは駄目なんだ」

と声に出して呟くほど息巻いていました。わたしも気になって、父が読み終わった後その記事を読んでみました。その記事によると、万能細胞を作る過程で遺伝子に制御を加えることで、生まれてくる子どもの性格や能力などを制御することを目指した研究が最近活発になってきていて、中でもNPASS研究所は有力な学術誌に数多くの論文を発表しているとのことでした。しかし、その論文の一部に改ざんなどの不正があったというのです。記事は『成果は本当に上がっていたのか疑いがもたれる』と結んでいました。

 このことはメグさんも知らなかったようでした。学校でメグさんに話すととても驚いていました。

メグ「これがNPASS生まれの人たちに対する差別につながらないと良いんだけど……」

 やっぱり私たちの一番の懸念はそこでした。

 * * *

 土曜日の朝、マヤさんとメグさんがラビットハウスの前までわたしを迎えに来てくれました。約束した通り、警察署まで行ってココアさんの捜索状況を確かめに行くためでした。

 警察署の建物はとても物々しくそびえ立っていて入るのを躊躇わせる空気がありました。マヤさんが先頭に立って正面のドアをくぐりました。

警察官「残念ですが、事件性が無いと見なされた案件ですと警察が積極的に捜索を行うことはありません。ですから、ご依頼の案件についても連絡がないとのことであれば基本的に捜査はなされていないかと思います。それでも進捗をお調べしますか?」

 担当の警察官の口調は穏やかでした。ですが、語られた現実はわたしの期待を大きく裏切るものでした。ですが、心のどこかでわたしは安心していました。警察が捜査をしていないならこれだけの期間見つからないのも当然です。

マヤ「構いません、お願いします」

 探している人の名前、届け出を出した人の名前などいくつか聞かれたことに応えると、警察官は一度奥に資料を探しに行きました。

マヤ「探さないなら何のための捜索願だよー」

 マヤさんが呆れたようにこぼしました。至極まっとうな意見でした。

チノ「そうですね。これでは出したところで何の意味もありません」

メグ「それだけたくさんの届け出が出されてるってことなんだろうけどね……」

 わたしたちは、さっきの警察官が消えていった扉を冷めた目で見つめました。しばらくして、ようやく担当の警察官が戻ってきました。わたしたちは期待せずに答えを待ちました。しかし、警察官が発した言葉は想定をあまりにも大きく裏切るものでした。

警察官「お調べしましたが、保登心愛さんという方の捜索願は提出されていません」

 * * *

 わたしたちは帰り道を無言で歩き続けました。3人とも思いは同じでした。わたしの父が捜索願を出したと言ったのはウソだったのです。となれば、父がココアさんの失踪について何か知っているのは間違いないでしょう。それを問い詰めなければなりません。

 ですが、ラビットハウスに近づけば近づくほどわたしの膝はガクガクと震えてきました。ココアさんは、わたしが告白する前からわたしの気持ちを知っていたのではないか。そして、そのことを父に相談していたのではないかと思ったのです。万が一わたしがココアさんに告白するようなことがあったらもうここには住めない、実家に帰る、そういう約束をしていたのではないか。それだけココアさんにとってはわたしの気持ちが受け入れがたいものだった……ずっと考えていたことですが、いざそれを指摘されるのはあまりに恐怖でした。

マヤ「どうしたんだ、チノ?」

 思わず足がすくんでしまったわたしの肩に、マヤさんはポンと手を乗せました。

チノ「何でもありませんよ」

 マヤさんの手から伝わる温もりはわずかでした。でも、そのわずかな温もりがわたしに一歩を踏み出す勇気を与えてくれました。

 ラビットハウスのカウンターにはリゼさんが一人で立っていました。父と話をするために厨房の方に向かおうとするわたしたちをメグさんは呼び止めました。

メグ「その前にちょっとだけココアさんの部屋を見せてもらってもいいかな?」

チノ「それは構いませんが……」

 わたしたちはいったん2階に向かいました。ココアさんの部屋に入ると、メグさんは迷わずココアさんのベッドに近づいていきました。

チノ「そこに何かあるのですか?」

メグ「ちょっとね」

 そう言いながらメグさんはベッドの下をのぞき込み、それからすぐに体を起こしてから言いました。

メグ「もう良いよ。待たせてごめんね」

 わたしたちは階下に戻りました。

 * * *

メグ「わたしに話をさせてもらってもいいかな」

 階段を下りる途中、メグさんはそう申し出ました。メグさんには何か考えがあるようでした。わたしとマヤさんは顔を見合わせてから頷きました。

メグ「出してなかったんですね、ココアさんの捜索願」

 メグさんは話を切り出しました。

タカヒロ「何を言っている?そんなはずはない」

メグ「しらを切っても無駄です。警察署に行って確認してもらいましたから」

タカヒロ「まったく、警察も怠慢な仕事をするものだ」

メグ「ココアさんはどこにいるんですか?教えてください」

タカヒロ「俺が知るはずがない」

 緊迫した空気の中で、メグさんと父の攻防が行われていました。わたしとマヤさんの口のはさむ余地はありませんでした。

メグ「そんなはずはありません。捜索願は出されていなかったんです」

タカヒロ「それは違う。俺は確かに出した。警察がそれを黙殺しただけだ」

メグ「言い方を変えます。あなたはココアさんがNPASSによって作られたということを知っていますね?」

 待ってください。ココアさんがNPASSによって作られた?……一体メグさんは何の話をしているんでしょう。

タカヒロ「……君は何を言っているんだ?」

 父の反応もわたしと同じでした。

メグ「NPASSには第一次計画と第二次計画が存在します。現在進行しているのは第二次計画、よく知られている通り万能細胞によって人工的に子どもを増やすプロジェクトです。ですが、第一次計画は人工知能を搭載したロボットを開発するプロジェクトだったと聞いています。本で読みました」

タカヒロ「ああ、その通りだ。NPASSは元々ロボットを生産することで少子化対策を目論むプロジェクトだった」

メグ「そのプロジェクトで試作されたロボット、名前を“COCOA”と言うそうですね。COCOA――ココア、最初に本で読んだときには全く気付きませんでしたが、これは偶然ではありません。さっきココアさんのお部屋を見せてもらいました。ココアさんのベッドには非接触給電装置が取り付けられていました。本当に本で読んだ通りでした」

 ココア、非接触給電装置……そんな話初めて聞きました。ココアさんがロボット……まさか……展開に頭が追いついていきません。

タカヒロ「そんなことまでよく調べたね、感心するよ。もはや認めるしかない。ああ、俺はココア君が今どこにいるか知っている。ココア君の正体がロボットだということもね。だが、君たちに居場所を教えるわけにはいかない」

 ココアさんがロボット……父はそれを知っていた?もう何が何だか、頭の中はぐちゃぐちゃでした。わたしとマヤさんを置いてけぼりにして、メグさんと父の攻防は続きました。

メグ「ココアさんを目のつかないところに匿って、何が目的ですか?」

タカヒロ「勘違いしないで欲しいが、ココア君が失踪したのは俺たちが仕組んだことではない。ココア君をある場所に匿っているのは事実だが、それはココア君自身の意思だ」

メグ「それを信じろというのですか?」

 メグさんは語気を強めて言いました。

メグ「今、国はNPASS事業の再開に動いています。このままいけば来年度から事業は再開される。あなたのようにNPASSに反対する人達は、状況を覆す切り札が必要だと考えているはずです」

タカヒロ「俺たちはココア君を利用しようなどとは考えていない」

メグ「これだけ利用価値があるのに、ですか?例えば、ココアさんにはいざとなったときすべての記憶を失うように細工がされているそうです。実験用のロボットを作って、実験台にして挙句記憶まで奪えるようにしている。こんな格好の攻撃材料をあなた方が見逃すとはにわかには信じられません」

タカヒロ「そう思われるのも無理はないか……。だが決してココア君のことを利用することはない。これは本当だ。信じてもらうしかない」

 もう頭では処理できないほどいろいろな言葉が交わされました。頭の中を整理するにはしばらく時間が掛かりそうでした。ただひとつ分かるのは、父がわたしたちを騙していたということでした。

 ココアさんの日常を奪ってNPASS反対運動のために利用しようとしている。そんな人を、わたしは父とすら呼びたくありませんでした。

チノ「返してください……ココアさんを返してください!」

 わたしは父を睨みつけて叫びました。ですが、父は取り合おうとはしませんでした。

タカヒロ「それは出来ない」

チノ「もうやめて……ココアさんを酷い目に合わせるのだけは許さない!」

 激情が体の奥からマグマのように湧き上がり、喚き声となって喉を通過していきました。

タカヒロ「ココア君には何もしていない。彼女は元気に暮らしている」

チノ「信じられません、そんなこと!」

タカヒロ「事実だ。信じてくれとしか言いようはない」

 わたしは、喉が嗄れるまで叫び続けました。もう父の言葉など耳には入っていませんでした。

 その晩から、わたしは千夜さんの家で寝泊まりすることにしました。裏切り者と寝食を共にする気にはなれませんでした。父は、家を出ていくわたしを引き留めようとはしませんでした。

Part 14に続く

拍手[0回]

PR