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歩くんですの箱 SS置き場

躍動感を表現するにはどうすればいいんだろう……と日々考え中。

【ごちうさSS】記憶よ、もう一度 - Part 10

Part 10

 【10】

 季節は移り変わり、わたしの中学校生活もあと1年になりました。わたしは、マヤさん、メグさんと桜の花びらが舞う通学路を歩いていました。

マヤ「なんか実感わかないよなー」

 マヤさんがそんなことを言い出しました。今日は始業式。午前遅い時間の道路は人がまばらで、歩いているのはわたしの学校の人たちだけでした。そんな通学路に舞う桜吹雪は、まるでわたしたちの新生活を祝福しているかのようでした。

メグ「中学校最後の一年なんだから自覚をもってしっかりしなさい、なんて言われてもあんまりよくわかんないよね」

マヤ「そうだよなー」

 そんなことを言いながら、マヤさんは植木の葉っぱを1枚ちぎって口にくわえ、ピーと音を鳴らしました。

チノ「少なくとも、そういう子どもっぽい遊びは自覚をもった行動とは言えないと思います」

マヤ「えー、中学生なんてまだ子どもじゃーん」

 まあ一理あります。特にマヤさんなんかを見ていると。

チノ「子どもでいられるのもあと1年なんですから、少しは大人っぽくなる努力もした方が良いんじゃないでしょうか」

マヤ「大人っぽくっ言ったってなー、どうすりゃいいのさ?」

チノ「そういわれると難しいですが……」

メグ「周りにいる大人の人を参考にしてみたらいいんじゃないかな」

 なるほど。さすがメグさんです。ですが、大人の人と言われてもいったい誰を参考にすればいいのでしょう。

青山「呼びましたか?」

 突然、背後から声が掛かりました。わたしたちは、びっくりして一斉に振り向きました。

マヤ「おお、神出鬼没!」

チノ「わわっ……」

 背後にいたのは青山さんでした。この人もつくづく自由人と言いますか……、そこが良いところなのかもしれませんが。

青山「ここの桜並木は綺麗ですよね」

 驚かされたこちらの気も知らず、青山さんはのんびりとした口調で言いました。

青山「毎年、この時期に満開の桜の下を歩くのが好きなんです」

マヤ「へぇー、なんかそういうのいいな……あっ、これだ!」

チノ「どうしたんですかマヤさん?」

マヤ「大人っぽい、ってこういうことだよ!」

 マヤさんは、まるで大発見のように目を輝かせていました。

メグ「確かに青山さんって優雅で大人っぽいかも」

 メグさんも青山さんを称賛します。

青山「あら、なんだか照れますね」

 わたし達3人に注目されて、青山さんは少し困ったように桜の木を見上げ、何気なく横髪をかき上げました。そんな仕草もなんだか大人っぽく見えました。

 それに倣ったつもりなのか、マヤさんもこれ見よがしに視線を上げ、髪をかき上げる仕草をしました。反応が欲しいのか、ちらっ、ちらっとこちらに視線を送ってきます。仕方がないので感想を述べてあげることにしました。

チノ「わざとらしすぎます。青山さんのとは似ても似つきません」

マヤ「えー、大人っぽくなかった?」

チノ「全然」

マヤ「そっかー、大人っぽいって意外と難しいんだなー」

 そして、マヤさんは少し悩んだように黙り込みましたが、すぐに何か思いついたのかぱっと満面の笑顔を咲かせました。

マヤ「よし、決めた!青山さんに弟子入りして修行する!」

青山「えっ、弟子入り、ですか……?」

 急に言われて青山さんはあからさまに困惑していました。しかし、マヤさんがピッと背筋を伸ばして

マヤ「師匠!わたしに大人の極意を教えてください!」

と言いながら敬礼すると、

青山「はあ……、わたしなんかで良ければぜひ」

とあっさり受け入れてくれました。

マヤ「では早速ですが師匠、どんなことをすれば大人っぽいですか?」

 マヤさん、すっかりノリノリです。そんなマヤさんにアドバイスする青山さんも満更ではないようで、弟子の相談に快く応じました。さすが高校時代多くの部活にアドバイスをして道を示したミス・エメラルドだけあります。

青山「そうですね……、大人といえばやっぱり『恋』でしょうか」

 恋、ですか……。確かに、恋を知っている人は何となく大人のような気がします。

マヤ「恋?」

メグ「恋かぁ~、なんだかロマンチック」

 聞き慣れない言葉にきょとんとする幼い子どものように首を傾げるマヤさんと、乙女チックな夢に浸るメグさん。やっぱりわたしたちはまだまだ子どもです。

青山「恋をすれば人は成長します。きっと、マヤさんもそういうトキメキを経験してみると大人になれると思いますよ」

マヤ「おお、そうなのか!でも相手がいないしなぁ……」

 そう言って、マヤさんはため息をつきました。その溜息は、わたしたち3人の思いを代弁しているようでした。けれど、そんなわたしたちにも青山さんはいつもの落ち着いた調子でアドバイスをくれました。

青山「慌てる必要はありません。来るべき時はそのうち来るものですから……あっ」

 しかし、これまでゆったりとした口調で話していた青山さんが急に慌て始めました。

青山「すみません、私はのんびりしている場合ではないようです」

 そう言うなり、青山さんはいきなり走り始めました。

マヤ「あっ、ちょっと!」

 マヤさんが呼び止めようとしますが青山さんの背中はどんどん小さくなっていきます。そして、後ろからは別の声が聞こえてきました。

凛「止まりなさーい!いつまで逃げ続ける気ですかー!?」

 叫びながら走ってくるのはいつかお会いした青山さんの担当編集の方でした。

凛「はぁ……はぁ……、いい加減手間を掛けさせないで下さーいっ」

 息を切らしながらも根気よく青山さんを追って目の前を通り過ぎていきます。気苦労の多いことで、少し同情してしまいます。

メグ「青山さん、また締め切り近くの原稿上げてないんだね……」

チノ「あんな調子ですけど、本当に弟子入りするんですか?」

マヤ「うーん、やっぱ遠慮しとこうかな……」

 これにはマヤさんも苦笑いでした。

 それにしても……、わたしは心の中で青山さんの言葉を思い返していました。恋をすれば大人になれる、そう青山さんは言いました。恋……わたしも恋をすることはあるのでしょうか。

 そんなことを考えた途端、ココアさんが優しくわたしを抱きしめている光景が思い浮かびました。こんなところでどうしてココアさんが……?こんなのおかしいです。なのに、ココアさんの姿はわたしの頭の中からなかなか離れてくれませんでした。

マヤ「チノ、顔赤くない?」

 指摘されて、顔が熱くなっていることに気づきました。心臓も心なしかいつもより早く鼓動しています。顔に出るくらいわたしは動揺している。一体わたしはどうしてしまったのでしょうか。ただただ混乱していたわたしは、マヤさんの言葉に

チノ「えっ?そ、そんな訳ないです」

と咄嗟に否定することしか出来ませんでした。

 * * *

 午後はいつものようにラビットハウスの仕事でした。その間もなんだかドキドキしてココアさんの顔が直視できませんでした。

ココア「チノちゃーん」

チノ「はっ、はい!?……なんでしょう?」

ココア「こっちのお皿洗い終わったからしまっておいてくれるかな」

チノ「分かりました」

 わたしは、ココアさんの手から差し出されたお皿を受け取ろうとしました。そのとき

チノ「あっ」

ココアさんの指が当たりました。ココアさんは特に気づいていないようで、そのまま次のお皿を拭き始めています。

チノ「……」

 指と指が当たるなんて珍しいことではありません。今までにも何度かあったことです。なのに、今日はなぜか妙に意識してしまって心臓のドキドキが止まりません。わたしは、ココアさんの手が当たった指先をじっと眺めながら固まってしまいました。

ココア「チノちゃんどうかしたの?」

チノ「いえ……なんでもありません」

 ココアさんの顔を直視できず、わたしは顔を背けたまま答えました。

ココア「もしかしてケガでもした?」

 心配そうに言いながらココアさんは私の指をのぞき込みました。どうやらわたしが指先をじっと見ていたので指を切ってしまったのではと思ったようです。

チノ「本当に何でもありませんから」

ココア「ならいいんだけど……」

 ああ、わたしがこんな調子なばっかりにココアさんに無用な心配を掛けてしまっています。本当にわたしはどうしてしまったのでしょう。

 いえ、本当は自分でその答えも分かってはいるのです。でも、その答えはあまりに突拍子もないもので……だからわたしは混乱してしまうのでした。

リゼ「ココアも心配してたけど、何か悩んでるんじゃないか?」

 ココアさんだけでなく、リゼさんまでわたしを気遣って声を掛けてくれました。それほど今のわたしは周りから見ても様子がおかしいということでしょう。

チノ「リゼさん」

 わたしは声を落としてリゼさんの耳元に顔を寄せました。この人は今のわたしから見ればまさに先人と呼ぶべき人です。ですから、わたしはリゼさんに意を決して心の内を打ち明けることにしました。

チノ「後で相談に乗ってもらえますか」

リゼ「分かった」

 リゼさんはシンプルにうなずいて答えてくれました。

 * * *

 ラビットハウスの仕事が終わった後、わたしはリゼさんに呼ばれて自宅にお邪魔しました。ココアさんと父には買い物をしてくると言って出かけてきました。

 いつ見てもリゼさんの自宅は本当に広いです。護衛やメイドさんに頭を下げられるたび、やっぱりリゼさんはお嬢様なのだとわたしは心の中で感心していました。

 邸宅の中を見回してみると、玄関から延びる廊下の先にのぼりが立っているのを見つけました。そこには『NPASS断固反対!』と書かれていました。わたしがそののぼりを見ていることに気づいたのか、リゼさんは少し後ろめたそうに言いました。

リゼ「あの部屋は応接間で、会議室としても使ってるんだ。今日もあそこでNPASS反対運動の会議をやってるんだよ」

チノ「お父様ですか?」

リゼ「ああ。私はもうあの集会には参加してないけど、親父には親父なりの信念があるみたいなんだ。ずっと幹部をやってる。やめて欲しいって言ったら『リゼはリゼで自分の信じることをやればいい。俺は俺の信じることをする』って言われたよ」

チノ「いいお父様ですね。リゼさんには活動を強制しないんですから」

リゼ「そうなのかな。そういう意味ではチノの親父さんだって一緒だろ?」

チノ「そうですね。NPASS反対運動に参加してることすら教えてもらえませんでしたし」

 そんな話をしながら、わたしはリゼさんに連れられてお部屋にお邪魔しました。

 * * *

リゼ「ココアのことが好きだって!?」

 わたしが打ち明けた話に、リゼさんは驚きを隠せないようでした。

チノ「わたし自身混乱してはいるんですが……。でも、そうとしか考えられません」

リゼ「確かに、今の話を聞いた感じだとそうとしか思えないが……。まったく気付かなかった」

チノ「ココアさんを見ると顔が熱くなって、まともに顔を見ることもできなくなってしまうんです」

リゼ「恋の病、か」

 リゼさんは思案顔で重々しく言いました。

チノ「恋を経験しているリゼさんならこういうときどうすればいいのか分かるかと思って相談してみたんですが……」

リゼ「チノはどうしたいんだ?」

 私の疑問には直接答えず、リゼさんはわたしとまっすぐ目を合わせて聞き返しました。

チノ「こんな状態じゃお仕事もままなりません。ココアさんにも心配を掛けてしまっていますし……」

リゼ「普段通り振る舞えるようになりたい、ってことか?」

チノ「はい」

 リゼさんはまた思案顔に戻り、しばらく押し黙っていましたが、やがて顔を上げて言いました。

リゼ「やっぱり、こういうのは原因を取り除かなきゃダメなんじゃないか?」

チノ「と、言いますと?」

リゼ「きちんとココアに想いを伝えるんだよ」

チノ「想いを伝えるって……そそ、それってつまり……」

 また心臓が高鳴ってくるのを感じました。ココアさんがいなくても、ココアさんのことを考えただけでこんなになってしまうなんて、いつか心臓が働き過ぎで壊れてしまうんじゃないかと心配になります。

リゼ「変えようとしなきゃ何も変わらないんだ。例え苦しいことにぶつかったとしても、その先にあるものは変わろうとしなきゃ得られない。シャロのことを好きになって、私自身それを学んだんだ」

 実際に辛い思いをして、その末にシャロさんと恋人になることが出来たリゼさんの言葉には重みがありました。だからこそ、その言葉はわたしの心の中に深く染み込んでいきました。気がつけば、あれだけ高鳴っていた心臓が嘘のように落ち着いています。

チノ「リゼさんに相談してよかったです。おかげで、わたしにも決心がつきました」

リゼ「お役に立てたなら何よりだ」

 わたしは、リゼさんに心の底から感謝しました。おそらく、千夜さんやメグさん、マヤさんに相談してもこうはいかなかったからでしょう。最後はいい結果に落ち着いたとはいえ、無責任にシャロさんをけしかけてリゼさんとのすれ違いを起こしてしまった自責の念はわたしだけでなく、きっと彼女たちの心にも深く刻まれているはずです。そんな彼女たちにはわたしの背中を押すような言葉を発することは出来なかったかもしれません。

 * * *

 リゼさんに改めてお礼を言ってから、わたしは邸宅を出ました。ココアさんに想いを伝える決心はしたものの、どうやって伝えたらいいのか悩みます。いきなり「好きです、ココアさん!」とでも言うのでしょうか。いやいや、それはいくらなんでも急すぎます。まずはデートに誘えばいいのでしょうか。いや、ずっと一緒に暮らしているのに改めてデートにお誘いするのもなんだかおかしいような……。やっぱりよく分かりません。こういうことを相談するなら千夜さんが一番頼りになりそうですし、明日にでも相談してみましょう。

 * * *

 翌日の放課後、わたしは甘兎庵にお邪魔していました。

千夜「やっぱりそうだったのね」

 わたしのココアさんへの想いを伝えても、千夜さんは驚く様子はありませんでした。

チノ「気づいてたんですか?」

千夜「そうね、見てれば分かるわ」

 わたしの態度はそんなに分かりやすかったでしょうか。でも、千夜さんよりもわたしといる時間が長いリゼさんは結構驚いていました。なので、千夜さんの観察眼はさすがというべきなのでしょう。

チノ「どうやって想いを伝えたらいいと思いますか?」

千夜「えっと……」

 千夜さんはあからさまに表情を曇らせました。シャロさんの時の失敗が頭をよぎっているのでしょう。

チノ「告白することはもう決めたんです。その上で千夜さんのアドバイスが欲しいって言ってもダメですか?」

千夜「……わたしが言えるのは、あくまでわたしの考えだけよ」

チノ「分かっています。たとえ上手く行かなかったとしても全部わたしの問題です。千夜さんが責任を感じる必要なんてありません」

 千夜さんはしばらく黙ってじっと何かを考えているようでしたが、やがて口元を緩めて言いました。

千夜「年下の子にぜんぶ背負わせるなんて出来るわけないわ。万が一の時はわたしの胸でいくら泣いてもいいから、ね?」

チノ「ありがとうございます。いえ、できれば泣かずに済みたいですけど……」

千夜「告白は気持ち。だから、それが伝わればどんなやり方でもいいと思うわ。だけど……やっぱりまずデートをして、その流れで告白……っていうのが一番スムーズじゃないかしら」

 それはわたしも考えました。ですが……。

チノ「普段から一緒に暮らしてるのにいきなりデートに誘ったら変だと思われないでしょうか」

千夜「うーん、別に変ではないんじゃないかしら。むしろ喜ぶと思うわ」

 そうでしょうか……やっぱり不安です。

チノ「もし何か聞かれたらどうすればいいでしょう……?」

千夜「たまにはお姉ちゃんとお出かけしてみたくなったんです、って答えたらいいわ」

 わたしの不安とは裏腹に、千夜さんはいたずらっぽく笑って答えました。わたしが心配性なだけなのでしょうか……。とはいえ、考えていても何も進まないのは事実です。リゼさんだってそう言っていました。

 とにかくやってみよう、千夜さんの笑顔はわたしにそんな気持ちを湧き立たせてくれました。

千夜「プランとかは考えてるの?」

チノ「プラン……そういえば、デートっていったい何をすれば良いのでしょうか」

 言われてみれば、そういうことすらわたしはぜんぜん分かっていませんでした。

千夜「定番はやっぱり映画とかショッピングかしら。あとは遊園地とか水族館なんかも良いと思うわ」

チノ「普通ですね……カップルならこれは外せない、とか、そういうポイントはないんでしょうか」

千夜「こうじゃなきゃダメ、なんてことはないのよ。やりたいことをやればいいし、行きたいところに行けばいい。あんまり固く考えなくてもいいと思うわ」

チノ「なるほど……、ちょっと考えてみます」

 やっぱりココアさんが喜んでくれるのが一番です。といっても普段から行けるところでは面白くないですし……。あとは家に帰って考えてみることにします。

チノ「ありがとうございました。わたし、頑張ります」

千夜「ファイト、チノちゃん!わたしも応援してるわ」

 温かい声援に見送られて、わたしは甘兎庵を後にしました。

Part 11に続く

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