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歩くんですの箱 SS置き場

躍動感を表現するにはどうすればいいんだろう……と日々考え中。

【ごちうさSS】記憶よ、もう一度 - Part 05

Part 05

 【5】

 リゼさんも前を向いて、シャロさんもショックから立ち直って……これでなにもかも元通りになるのだと思っていました。ですが、わたしは事態を甘く見すぎていたことを思い知らされました。

リゼ「シャロが話してくれないんだ……」

 お皿を洗いながら、リゼさんがそんなことを言い出しました。

リゼ「学校で会って話しかけてもそっけなくされて……ごめんなさい、急いでるんですって言ってすぐにどこかに行ってしまうんだ……」

チノ「そうなんですか?もうとっくに仲直りしたのだとばかり……」

リゼ「私は早くそうなりたいんだけどな……。正直、シャロのことを恋愛対象として見れるかはまだ分からない。でも、私にとってシャロは可愛い後輩で、友達なんだ。それだけは間違いないんだ」

 正直戸惑いました。この前フルール・ド・ラパンに行った時に見たシャロさんと、リゼさんの口から語られるシャロさんのイメージがどうしても重なりませんでした。

 いや、思えばヒントはありました。それは、フルール・ド・ラパンの店長が言っていた話です。シャロさんはバイトをみっちり入れて欲しがったとのことでした。接客をしているシャロさんが明るく見えたのでごまかされてしまいましたが、あの話を聞いた時点で異常に気づくべきでした。

リゼ「私はシャロに嫌われてしまったんだろうか……」

チノ「そんなわけありません!……きっと、リゼさんのことが諦めきれなくて、それで悩んでるんです」

リゼ「そんな……私はシャロを傷つけたのに……」

 リゼさんは、その場で泣き崩れました。心を痛めつけられるような思いでした。わたしとココアさんは寄り添って、リゼさんは悪くありませんと繰り返すことしか出来ませんでした。

 数分でしょうか。それとも一時間でしょうか。どれほどの時間が経ったのか分かりません。いつの間にか、外は薄暗くなっていました。それは、日が沈んだせいでしょうか。それとも、黒く厚い雲が空を覆い始めているからでしょうか。

 暗い空から落ちてきた冷たい雨粒が、道路に面した大きな窓ガラスを濡らしました。

 * * *

 ラビットハウスが閉店した後、私はある人を待つために店先に出ました。

メグ「こんばんは」

 待ち合わせをしていた人は、すでにお店の前に立っていました。

チノ「早いですね」

メグ「時間通りだよ~」

 実は学校でメグさんから、わたしの父に聞きたいことがあるからラビットハウスの営業が終わったら話をさせてほしいと言われていたのでした。

メグ「おじゃまします」

 お店なので挨拶はいりませんよ、そう言おうと思いましたが、よく考えたら今は営業時間外でした。わたしは、メグさんを父のところへ案内しました。

タカヒロ「よく来たね。座って」

メグ「ありがとうございます」

 メグさんは、父が指し示したソファーに腰を下ろしました。わたしもメグさんの隣に座りました。

タカヒロ「バーの開店準備があるからあまり時間は取れないけど、答えられることならなるべく答えるよ」

メグ「どうも、お忙しい中わざわざお時間を取っていただいてありがとうございます」

 メグさんの口調は礼儀正しく、いつもより大人びて見えました。いったい、メグさんは何の話をしに来たのでしょう。隣にいるはずなのに、なんだかメグさんが遠くに行ってしまったように見えました。

メグ「今度の日曜日、市民会館で決起集会が開かれるそうですね」

 どうしましょう……最初からもう何の話だか分かりません。

タカヒロ「ああ、よく知ってるね。チラシを見たのかい?」

メグ「はい。この前の日曜日……バレンタインデーです。その日に公園でもらいました」

 そう言って、メグさんは一枚の紙を取り出しました。その紙はわたしも見覚えがあるものでした。一番上に大きく「立ち上がれ!今こそこどもの生産完全中止へ!」と書かれた紙です。

タカヒロ「これかい。君は興味があるのかな?」

メグ「興味というか……このチラシを作ったのはチノちゃんのお父様ですよね?」

 いよいよ話が見えません……。

タカヒロ「どうして分かったんだい?あ、俺のことはタカヒロと呼んでくれればいいよ」

メグ「ありがとうございます。いえ、外側の枠のデザインとか、使ってる字体が以前見たラビットハウスの宣伝の紙と一緒だったので……」

タカヒロ「それだけで気づくとは鋭いね。それにあれを配ってたのは結構前だろう。ココア君が来る前の話だったはずだよ」

 どうりでなんとなく見たことがあるように感じたはずでした。あのチラシを作ったのが父がだったというのも驚きですが、それを見破るメグさんも侮れません。

 それにしても、メグさんはこのチラシの話をするためにわざわざ父に会いに来たのでしょうか?

メグ「このチラシはタカヒロさんが印刷したのですか?」

タカヒロ「そうだね。そこのプリンターで。少し高かったけどレーザープリンターにした甲斐があったよ。印刷が速い」

メグ「チラシを公園まで持って行ったのはリゼさんですか?」

タカヒロ「そうだね。公園に行く用事があると言っていたから、ついでに持って行ってもらったよ」

 ということは主催団体の代表者である天々座という名前の人物は、やはりリゼさんの関係者だったようです。用事というのは、もちろんシャロさんの呼び出しのことを言っているのでしょう。

メグ「ありがとうございます。それを確かめたかったのが今日の目的の一つ、そしてもう一つの目的は……」

 メグさんは、そこで一度口をつぐみ、一つ大きく息を吸いました。ここからが本題だ、と強調するように。

メグ「タカヒロさんにお願いに来たんです」

タカヒロ「なんだい?」

メグ「決起集会を中止にして欲しいんです」

タカヒロ「ほう……一応理由を聞くけど、なぜかな?」

メグ「わたしが気に入らないからです」

タカヒロ「そんな理由で中止に出来ると思うかい?もう会場も取って、団体の皆にも結集を呼び掛けている。第一、それをお願いしたいなら私じゃなくて天々座に直接言った方が早い」

メグ「もちろん行きました。ですが、天々座さん……リゼさんのお父様は今海外に出張中だと言われました」

 天々座さんとは、リゼさんの関係者どころか父親だったのですか。

タカヒロ「窓口が俺しかなかった、と」

メグ「はい」

タカヒロ「君には娘がいつもお世話になっている。仲良くしてくれて感謝してるよ。だけどその頼みは聞けないな。俺の権限で何とかなるものじゃないし、俺自身の信念にも反する」

メグ「そこを何とか……お願いします」

 メグさんは立ち上がり、深々と頭を下げました。父は、そんなメグさんを不思議そうに見つめていました。

 * * *

 メグさんに聞きたいことは山ほどありました。けれど、わたしは結局一言も言葉を発することなく戸口を出ていくメグさんを見送りました。

 父がわたしの知らないところで政府のプロジェクトに反対する運動をしていたのも驚きでしたが、そんなことよりもメグさんがなぜその活動のことをそんなに気にするのかが分かりませんでした。それに、本音を言うとわたしはメグさんに対して不快さを感じていました。

 泣き崩れるリゼさんの姿には、ただただ心が締め付けられました。かける言葉一つ無い自分が情けなくて仕方ありませんでした。でも、これはわたしたちの軽率さが招いた結果なのです。わたしたちは、小さくてかけがえのない世界に自分たちの手で傷をつけてしまったのです。

 わたしもココアさんも千夜さんも、きっとマヤさんだってそのことをとても後悔しています。

 そんな時に、メグさんだけはシャロさん、リゼさんのことより政府の一大プロジェクトのことを気に掛けていたのです。もちろん、メグさんにはメグさんなりの信念があるのでしょう。だとしても、やはり納得は出来ません。メグさんにとっては、わたしたちの小さな世界のことなんかより、一国を取り巻く大きな世界の出来事の方が大切なのでしょうか。

 ……いえ、それ自体は責められることではないでしょう。むしろ立派なことです。メグさんの背中は、正義という名の盾に守られていました。だから、わたしは戸口を出ていくメグさんを黙って見送るしかなったのです。

 * * *

 その夜、千夜さんから電話が掛かってきました。

チノ「もしもし、香風です」

千夜『あら、チノちゃん?こんばんは』

 電話越しの千夜さんの声は心なしかかすれていて、ずいぶん弱っているようでした。

千夜『学校でココアちゃんから聞いたんだけど、シャロちゃん、リゼちゃんが話しかけても話してくれないんだって?』

チノ「はい……」

千夜『今日、帰ってからシャロちゃんにそのこと聞いてみたの』

チノ「どうでしたか?」

千夜『何も話してくれないわ。あんたには関係ないでしょ、って』

チノ「千夜さんにすら話してくれないんですか……」

千夜『ええ。最近、朝シャロちゃんに会うと元気に挨拶してくれるんだけど、それもなんか空元気みたいで……無理してるんじゃないかって思ってたけど、その通りだったのね……』

 千夜さんの言葉を聞いて、シャロさんはリゼさんにだけでなく千夜さんやわたしたちにまで心を閉ざしてしまったのだと思い知らされました。こうなった原因はわたしたちにあるのですから当然です。

千夜『……今回のことはどんなに悔やんでも悔やみきれないわ。ちょっとしたお節介のつもりだったのに……』

 今回のこと、とは、もちろんシャロさんに告白をさせたことでしょう。提案者である千夜さんが一番責任を感じているはずです。電話越しでもそれが痛いくらい伝わってきました。
 
チノ「千夜さんだけのせいじゃありません。わたしがしっかりしていれば……」

 もっときちんと考えていたら、こうなる可能性にも気づけたはずでした。後悔は深まるばかりでした。

 * * *

 金曜日の学校は、登校した瞬間から校舎内の空気がいつもと少しだけ違います。今日一日が終われば明日から休みだということでみんなが浮足立っているのです。けれど、わたしとマヤさん、メグさんだけは週の初めから引きずってきた憂鬱を一身に纏っていました。もっとも、メグさんはわたしたちのことより国家プロジェクトNPASSとやらの方が気になって仕方ないのかも知れませんが。休み時間の会話も減り、わたしたち3人はどこかよそよそしい空気のまま時間だけが過ぎていきました。

 授業の間、泣き崩れるリゼさんの姿が頭から離れませんでした。これまでのように仲の良い先輩後輩に戻りたいと思っているリゼさん。恋人同士にはなれないことを知って心を閉ざしてしまったシャロさん。お互いに近づきたいという気持ちは同じはずなのに、二人の思いは決して交わらない……どうすればいいのか、どんなに考えても答えは出てきませんでした。

先生「香風、例題の4番を解いてみろ」

 考え事をしていたので、先生にいきなり当てられて動揺しました。授業の内容などまったく頭に入っていません。とりあえず慌てて黒板の前まで出ていき、チョークを取りました。幸い、問題自体はそんなに難しいものではなく、知っている知識で何とか解けるものでした。

 ……よって、解なし。

 わたしが書いた答えに、先生は納得したように頷きました。

先生「うんうん、上出来だ!この問題は、2つ出てくる二次方程式の解がどっちも不等式の範囲から外れている。何も考えずに方程式を解くだけじゃなく、その答えが妥当なものかどうかってのもよく見ておくことが大切だぞ」

 先生はわたしが正解したのを気分よく褒めてくれました。ですが、わたしは自分自身が黒板に書いた答えを自虐的に眺めていました。

 時には答えがない問題もある。リゼさんとシャロさんの問題もそうなのだとしたら……、考えたくもありませんでした。

 * * *

 わたしが考えるまでもなく、解決の糸口は思わぬところから転がり込んできました。

リゼ「ここ数日……ずっと考えてた」

 土曜の昼下がりのことでした。ランチのお客さんが帰ってお店が静かになったころ、リゼさんはぽつりと言いました。

リゼ「私にとってのシャロは何なのかって」

 わたしたちは、黙って続きを促しました。

リゼ「シャロは可愛い後輩で、大切な友達で、……でも、それだけじゃなかった。もし私がシャロの隣にいられたらどんなに幸せだろうって思った……もしシャロの隣にいるのが私じゃなかったら……考えたら胸が苦しくなったんだ」

 リゼさんの独白は淡々としていて、でもわたしの心に深く突き刺さるものでした。

リゼ「これは、きっと恋だ……」

 それがリゼさんの出した答えでした。あまりに意外な言葉でした。てっきり、リゼさんはシャロさんとこれまで通りの関係に戻りたいのだとばかり思っていました。ですが、交わらないと思っていたリゼさんの想いとシャロさんの想いが実は同じ方向を向いているというなら話は簡単です。

ココア「そっか……。じゃあ、やるべきことは一つだね」

 ココアさんの言葉は、リゼさんを包み込むようでした。

リゼ「そうだな。明日、シャロに告白するよ」

 決意を固めたリゼさんの表情に迷いはありませんでした。悩み続けた一週間は何だったのかと言いたいくらいにあっけない解決になりましたが、これでリゼさんとシャロさんが普通に話せる仲に戻って、それどころか今までよりもずっと仲が進展するなら……そして、わたしたちの笑顔が戻るなら言うことはありません。

Part 06に続く

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