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歩くんですの箱 SS置き場

躍動感を表現するにはどうすればいいんだろう……と日々考え中。

【ごちうさSS】記憶よ、もう一度 - Part 04

Part 04

 【4】

 わたしたちが駆け寄ってきたのにもリゼさんは気づかない様子でした。普段のリゼさんなら、背後からこんなに大きな足音がすればすぐにでも銃を向けてくるはずなのに。

千夜「リゼちゃん!」

 千夜さんが大きな声で呼びかけて、ようやくリゼさんはこちらを向きました。

リゼ「お前らか……」

 そう言うリゼさんの声はいつになく弱々しいものでした。太陽はいつの間にか沈み、薄暗い闇が辺りを覆い始めていました。

リゼ「見てたのか……?」

 リゼさんの質問に、わたしは無言で頷きました。

リゼ「そうか……そういうことだったんだな……」

 聡明なリゼさんは、わたしたちの姿を見て何かを察したようでした。けれど、わたしたちには一体何のことか分かりません。ただ、リゼさんの言葉の続きを待つしかありませんでした。

 しばらくして、リゼさんはぽつりぽつりと話し始めました。

 * * *

 そうだよな、さすがの私でも気づいたよ……。

 みんな用事があるって理由で、私の誕生日パーティは延期になった。だけど、シャロだけはわざわざ私を呼び出して、今日中に誕生日プレゼントをくれたんだ。だけど、シャロの本当の目的はそれじゃなかったんだろ?

 バレンタインデー。幸か不幸か、私の誕生日はこんな世間的一大イベントの日と重なってしまった。

 今なら、シャロが私にくれようとしていたチョコレートが友チョコなんかじゃないってさすがの私でも分かるよ。お前らは、そんなシャロの後押しをしたんだな?それで、シャロの様子が気になって、用事があるふりをして私たちの様子を見に来たんだ。そこの植木の陰から見てたんだろ?

 なのに私は、そんなシャロの気持ちに気づかなくて……シャロを傷つけてしまったんだ!見てわかるだろ?一目で分かるよ……。私がシャロに渡そうとしたこのチョコは、デパートの地下なんかに行けばどこでも買えるような普通のチョコレートだもんな。想いを寄せてるやつからこんなものをもらったらそりゃショックだよな……。

 私がもっとシャロのことをよく見ていれば……もっと早くシャロの気持ちに気づいてあげられてたらっ!

 ……いや、本当はどこかでは気づいてたんだ。ただ、どうしていいか分からなかった。だから知らないふりして……気づかないふりして……そうやってごまかし続けてきたんだ。

 それがこの結果だ……。

 最低だな……私は……。

 * * *

 リゼさんは、話の途中から涙をにじませていました。

リゼ「……帰る」

 リゼさんはそう言って、そのまま去って行きました。誰一人、リゼさんに声を掛けることはできませんでした。取り返しのつかないことをしてしまった、その思いだけがぐるぐると頭の中を駆け巡っていました。

千夜「シャロちゃんのところに行ってくるわ」

 悲壮に沈んだ声でそう言って、千夜さんは歩き出しました。わたしたちも無言でついていこうとしましたが、そんなわたしたちを千夜さんは振り払うように言いました。
 
千夜「今日は解散。みんなは先に帰ってて?」

 その声は静かな声でしたが、有無を言わせない響きがありました。

 千夜さんを見送った後、わたしたちは誰からともなく歩き出しました。公園を出るとき、門の近くに立っていた女の人が差し出してきたチラシを何となく受け取って、その紙を手に持ったままぼんやりと家路を歩きました。

 帰り道ではわたしもココアさんも言葉を交わすことはありませんでした。家に着くと、ココアさんはすぐに自分の部屋に籠ってしまいました。わたしも部屋に戻り、上着も脱がずにそのままベッドに横になりました。

 あの後、シャロさんはどうなったのでしょう。そろそろ、千夜さんがシャロさんの家に着いた頃でしょうか。千夜さんは、シャロさんにどんな言葉を掛けるのでしょう。千夜さんはシャロさんの幼馴染です。今は信じるしかありません。

 リゼさんは、シャロさんを傷つけてしまったとすごく後悔していました。けれど、本当はシャロさんを傷つけたのはわたしたちです。考えてみれば、シャロさんは自分から『リゼさんに想いを伝えたい』なんて言っていたでしょうか。わたしたちのやったことはただの浅はかなお節介です。それがシャロさんを傷つけてしまうとも知らずに……。

 * * *

 どれくらい時間が経ったでしょう。カーテンを閉め切ってランプを点けた部屋の中では、どれだけ時間が経っても明るさが変わることはありません。

 ぼんやりと視線を落とすと、ベッドの下に1枚のチラシが落ちていました。ぱっと見、やけに既視感を覚えてじっと見てみると、さきほど公園を出るときにもらったチラシでした。チラシの先頭には、目立つ字体で大きくこう書かれていました。

「立ち上がれ!今こそ人工的な手段でのこどもの生産完全中止へ!」

 その下に「万能細胞によるこどもの生産を1年間凍結する法案が国会で議決。NPASS完全中止へ一歩前進!」という文字がありました。そういえば、今朝もらった号外にそんなことが書いてあった気がします。

 チラシは、決起集会への参加を呼びかけるもののようでした。どうも、政府は以前からNPASSというプロジェクトを進めており、少子化に歯止めをかけるために万能細胞の技術を使って人工的にこどもを生産しているようです。このチラシは、そのプロジェクトに反対する活動をしている人たちが作ったもののようで、「悪魔の政策」「非人道的」という批判が書き連ねられていました。

 緊急に決起集会を行うことになったきっかけは、つい昨日国会で1年間NPASSを凍結することが決まったことのようでした。このままプロジェクトを完全中止へ追い込むため、人を集めて一気に活動を活発化させようというというのが目的のようです。

 チラシの真ん中より下のところには、決起集会の日時と会場が書かれていました。日時は来週の日曜午後3時、会場は公園のそばにある例の市民会館のようです。ですが、わたしが気になったのはさらにその下に書いてある代表者の名前でした。なぜなら、そこには「天々座」の文字があったからです。

 ……そんなことを気にしている場合ではありませんでした。わたしが向き合わなきゃいけない問題はもっと目の前にあります。えらい人たちはとっても大きな世界に住んでいて、国規模の大きな問題に取り組んでいます。それと比べれば、わたしの住む世界などとても小さくて、ちょっと間違えれば簡単に壊れてしまうのです。

 でも、どんなに小さくて壊れやすい世界でも、わたしたちで守らなきゃ誰も守ってはくれません。

 まずはシャロさんに謝りましょう。きっと、今のわたしに出来るのはそれくらいです。

 * * *

 翌日の放課後、わたしはココアさんとマヤさん、それにメグさんと一緒にシャロさんの家に行くことにしました。リゼさんにも一緒に来るかどうか尋ねましたが、
 
リゼ「今更私がシャロと会って話したって白々しいだけだよ……」

と断られました。お互い、もう少し心の整理がついてから話をしたいということでした。

 マヤさん、メグさんにもいつもの元気はどこにもなく、わたしたちはただ黙々と歩きました。

 甘兎庵の前を横切ろうとすると、店先に竹ぼうきを持った千夜さんがいました。店先の掃除をしているのかと思いましたが、よく見ると特にほうきを動かすでもなく、ぼうっとその場に立っているだけのようでした。その姿は、昨夜の首尾が最悪だったことを物語っていました。

ココア「千夜ちゃん……」

 ココアさんが小さくつぶやきました。きっと、今日の学校でも千夜さんはこんな様子だったのでしょう。わたしたちは、何も言わず千夜さんの横を通り過ぎました。
 
シャロ「千夜にも言ったけど、あなたたちのせいじゃないわ」

 開口一番、わたしたちが謝ると、シャロさんはそう答えました。

シャロ「わたしが勝手に舞い上がっていただけ……。勝手に舞い上がって……ただリゼ先輩に迷惑かけただけ。わたしがリゼ先輩の大切な誕生日を台無しにしたのよ」

 そのセリフを聞いて、わたしは心を締め付けられました。シャロさんは、最初からリゼさんの誕生日を台無しにしてしまう可能性を危惧していました。わたしたちの安直で軽はずみな行動がこんな結果を生んでしまったのだと改めて痛感しました。

シャロ「そもそも、わたしにはリゼ先輩の隣にいる資格なんてないのよ……。誰の隣にいる資格もない」

 ああ、シャロさんはもう完全に心を閉ざしてしまったようです……。
 
ココア「どうしてそんなこと言うの?資格がないなんて、そんな……」

シャロ「私なんて、ただの欠陥品よ」

ココア「どうしてそうなるの……?そんなこと言っちゃダメだよ!」

 私たちが言いたいことはココアさんが代弁してくれました。だから、わたしたちはただシャロさんとココアさんのやりとりを聞いているしかありませんでした。
 
 けれど、わたしたちの言葉はもうシャロさんには届きませんでした。

シャロ「本当のことよ……。もういいでしょ、この話は」
 
 バタン、と扉が閉じられて、わたしたち4人はそのまま軒先に取り残されてしまいました。

ココア「待って……もう少しだけお話しさせて!」

 ココアさんが扉を叩いて呼びかけますが、もう返事はありません。
 
チノ「帰りましょう……」

 わたしは、仕方なくそう提案するしかありませんでした。

 帰り際、今まで黙っていたメグさんが突然言葉を漏らしました。決して大きい声ではありませんでしたが、何となくざわつくような違和感があってやけに耳に残りました。
 
メグ「せめて、欠陥品の意味だけでも教えてほしかったな……」

 ラビットハウスに戻ったわたしとココアさんは、すぐにリゼさんに加わって喫茶店のお仕事に取り掛かりました。誰一人言葉を発する人はおらず、誰もいない店内はただ重い空気に包まれるばかりでした。
 
 沈黙を破ったのはココアさんでした。もうとっくに日の落ちた頃でした。

ココア「悪いのはリゼちゃんじゃないよ……」

 それは、わたしたちの総意でした。

チノ「ココアさんの言う通りです。わたしたちが考えもせずにシャロさんを煽ったから……だから悪いのはわたしたちです」

リゼ「いや……シャロ自身が本心を伝えたかったんだ。お前らはその後押しをしただけじゃないか……」

ココア「だったらリゼちゃんだって同じだよ。リゼちゃんにだって本心があるはずでしょ?」

チノ「そうですよ。リゼさんにはシャロさんの気持ちに応えなきゃいけない義務なんてないんですから」

リゼ「私は……私はシャロを傷つけたくなかった!」

ココア「だったら……シャロちゃんが告白してきたらリゼちゃんはそれを受け入れる?リゼちゃんはシャロちゃんのことが好きなの?」

リゼ「……分からない。もちろんシャロのことは友達として好きだし、可愛い後輩だと思ってるよ。でも……」

 きっと、リゼさんは今までこんなこと考えたこともなかったはずです。今のリゼさんは、シャロさんの気持ちに応えようと懸命に足掻いているようにも見えました。でも、それはただの同情です。

チノ「だったらリゼさんは間違ってません。優しさで恋人になったって、きっとシャロさんをもっと傷つけてしまうだけです」

リゼ「私はそんなつもりじゃ……」

 リゼさんの声はか弱いものでした。そうやって自分を欺いたらダメです。わたしが次に発した言葉は、少し怒気を含んでいたかもしれません。でも、わたしは本気でリゼさんに自分の本心と向き合ってほしいと思いました。

チノ「では、リゼさんは本気でシャロさんと恋人になりたいということですか?」

ココア「チノちゃん!」

 ココアさんの一声ではっと我に返りました。ただでさえ気持ちの整理をつけようとして苦しんでいるリゼさんを責めてどうするのでしょう。悔しいですが、間違いそうになったわたしを止めてくれたココアさんにはほんのちょっとだけお姉ちゃんらしさを感じてしまいました。

ココア「リゼちゃんは、リゼちゃんのしたいようにすれば良いんだよ。あとはわたしたちが何とかするから……ね?」

チノ「火種をまいておいて『わたしたちが何とかする』なんて言える立場では無いと思うんですが……」

ココア「あはは……」

リゼ「いや……ありがとう。私がどうしたいか……うん、ちゃんと考えてみるよ」

 リゼさんは、少しだけ吹っ切れたような表情をしていました。根拠なんてどこにもなくても、ココアさんの言葉はいつだってこんな風に人を前向きにする力を持っているのでした。

 * * *

 翌日、わたしは学校が終わった後マヤさん、メグさんと一緒にその足でフルール・ド・ラパンを訪れました。少し時間が早かったようで、シャロさんの姿はいませんでした。
 
 わたしは、店長らしき中年で細身のエプロンの男の人にシャロさんについて聞くと「もうすぐ勤務時間だよ」と教えてくれました。男の人は、わたしたちのテーブルに水を置いた後いったん奥に引っ込んで、それからまた戻ってきました。

店長「ちょっといいかな?」

チノ「なんでしょう?」

店長「君たち、桐間くんの友達かい?」

 店長に招かれて、わたしたちはお店の奥にある事務室のようなところに連れていかれました。そう広くはありませんが、手入れの行き届いた清潔感のある部屋でした。

店長「昨日桐間くんから電話があってね、バイトを増やしてくれって言うんだ。それでね、こっちも人手はあった方が助かるし、ぜひお願いしたいって言ったんだよ。まあそれだけだったら向こうもお金が欲しいのかな、くらいに思ったんだけどね」

 店長は、部屋の隅にある観葉植物のすぐ隣に置いてあった椅子におざなりに座って話し始めました。わたしたちは、黙って続きを促しました。

店長「ところがだ、『いいよ。どれくらい入れる?』って聞いたらなんて答えたと思う?学校行ってる時間以外はなるべく多く入れて欲しいって言うんだ。平日も、休みの日も関係無くね。さすがに変だと思ってね、とりあえずその場は、そんな急に増やすことは出来ないって言って断ったよ。そんだけシフトに入ってくれるならそりゃありがたいけどね、それ以上にちょっと心配だよね」

 店長はそこで一息ついてから、急に声を落として言いました。

店長「彼女、何かあったのかい?」

 タイミング的に、バレンタインデーの出来事以外考えられませんでした。

チノ「正直……心当たりはあります」

店長「そうかい……。いや、内容まで聞き出すつもりはないよ。ただ、彼女に言われるがままにシフトを増やして良いものかなぁと思ってね。こりゃちょっと様子見かな……」
 
 テーブルに戻った後、わたしたちは顔を見合わせました。

マヤ「どうしたんだろ、やっぱ落ち込んでるのかなぁ」

メグ「うーん……どうしたらいいのかな?」

 わたしたちが深刻な話し合いをしていると、奥からシャロさんが現れました。

シャロ「来てたのね、いらっしゃい」

 シャロさんはわたしたちのところに来て軽い口調で話しかけました。店長から聞いた話とは裏腹に、こうして働いている姿は思ったより元気そうでした。

シャロ「いつまでもウジウジしてるわけにはいかないでしょ。そんなことより……」

 シャロさんは、わたしたち一人一人にお勧めのお茶を見繕って入れてくれました。それぞれのお茶の効用や産地、特徴などを分かりやすく説明してくれて、思わず聞き入ってしまいました。
 
マヤ「シャロってやっぱり物知りだなー!」

メグ「どこでその知識手に入れたの~?」

 シャロさんの話に、マヤさん、メグさんは目を輝かせました。
 
シャロ「ただの趣味よ」

 メグさんの質問にシャロさんは気取らずに答えます。
 
 正直、どれだけ落ち込んだシャロさんを見ることになるかと心配しましたが、そんな心配は無用だったようです。きっと、バイトを増やしたがっていたのは単純にもう少し収入が欲しかったからでしょう。わたしは心の中でほっとため息をつきました。
 
 これでもうリゼさんとシャロさんは今まで通り仲のいい先輩後輩に戻ることができる、なにもかもが元通りになるのだと思いました。

Part 05に続く

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