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歩くんですの箱 SS置き場

躍動感を表現するにはどうすればいいんだろう……と日々考え中。

【ごちうさSS】記憶よ、もう一度 - Part 03

Part 03

 【3】

 2月14日。日曜日。
 
 カーテンの隙間から明るい陽射しが差し込んでいました。ひとまず照る照る坊主が功を奏したようです。
 
 下の階に降りるとすでにお父さんは起きていて、朝食の準備と開店に向けた仕込みを始めていました。

タカヒロ「おはよう、チノ」

チノ「おはようございます」

 一方、ココアさんはまだ起きてくる気配がありません。
 
 いつもと変わらない、平凡な日曜日の朝です。

 けれど、わたしは今日がこれから特別な日になることを知っています。そのせいか、わたしの心はどこか浮足立っていました。じっとしているのもなんとなく落ち着かなくて、わたしは朝の散歩に出かけることにしました。
 
 国内でも有数の観光客を集める土地というだけのことはあり、朝日を浴びた街並みはとても美しく見えました。穏やかに流れる川は太陽の光を反射してきらめき、楽しい休日の始まりを祝福しているようです。普段はこんなこと考えたこともありませんでしたが、ココアさんがかつてこの町に魅了されたわけが少し分かった気がします。
 
 川沿いに並ぶお店でいそいそと開店準備に精を出す人たちの姿をぼんやりと眺め、ジョギングをしている若者に追い越されながら歩いていると、いつの間にか公園の辺りに来ていました。この公園は、今日の夕方シャロさんのリゼさんへの告白の舞台となる公園でもあります。
 
 公園内に入ってしばらく歩いていると、20才くらいの若い女の人に声を掛けられました。
 
「いかがですかー?」

 見ると、手元に新聞の号外が差し出されています。わたしが受け取るべきか迷っていると

「タダだし、大事なニュースだからお家の人に見せてあげて」

と言って、わたしの手に押し付けてきました。困惑しながらも受け取って見てみると、一面に大きな文字で「万能細胞によるこども生産を一時凍結 国会で可決―生命倫理、人権問題への法整備進まず―」という見出しが書かれていました。わたしにはよく分かりませんが、きっと国にとってはとても重要な問題なんでしょう。

 公園のベンチには、犬を連れた男の子や、ジョギングの途中らしき女の人、それに広場を走り回るこどもたちを見守る優しそうな老人の姿がありました。わたしも、空いているベンチの一つに座りました。正面には芝生が広がり、その奥には大きな市民会館が立っているのが見えました。その市民会館は正面が全面ガラス張りで、この町には珍しい近代的な作りになっています。中にはカフェスペースに大きなホール、観光案内所、それに図書館もあると聞きますが、わたしはまだ行ったことがありません。
 
 わたしは、しばらくそこでぼうっと広場で遊ぶこども達やフリスビーを追いかける犬たち、それに時折足元に近寄ってくるうさぎたちを眺めて過ごしました。

 * * *

 夕方、わたしたちは千夜さんに呼び出されて公園に来ていました。

チノ「わたしたち、一体なにをしてるんでしょうか?」

千夜「もちろん張り込みよ」

チノ「いやそんな自信満々で言われても……」

 どのような状況か説明すると、わたしたちは公園の植木の陰に隠れて、10メートルほど先のベンチに座っているシャロさんの様子を見守っている状況です。
 
メグ「なんだか、探偵さんみたいで楽しいね~♪」

ココア「ちゃんとパン焼いてきたよー!」

マヤ「牛乳も買ってきたし!」

 というか、皆さん今の状況をだいぶ楽しんでいるようですけど、これただの覗きですよね……。

チノ「告白の場所に公園をすすめたのは、これが目的だったんですか?」

千夜「それもあるわ」

チノ「やっぱり!」

千夜「だって気になるじゃない?」

チノ「それはまあそうですけど……」

 気になるって言っても、ほんのちょっとだけです。ホントですよ。って、わたしは誰に言い訳してるんでしょう……。

ココア「あっ、リゼちゃん来た!」

チノ「ココアさん、静かに!」

 危なかったです。そんな大声を出したら隠れてるのがバレてしまいかねません。少し文句を言おうかとも思いましたが、ココアさんの指さす先に確かにリゼさんが歩いてくるのが見えたので後にすることにしました。リゼさんははじめ、少し辺りを見回していましたが、すぐに正面にシャロさんがいるのを見つけたようで、まっすぐとシャロさんのいるベンチまで歩いていきました。と、思ったのですが……。
 
マヤ「ごめん、ちょっとよく見えないからもう少しそっち寄ってもらえる?」

 マヤさんに言われてわたしが位置を移動した瞬間、ガサッと音がして植木が揺れました。そんなに大きな音ではありませんでしたが、リゼさんはこちらの方に視線を向け、迷いなくわたしたちの隠れている植木の方に寄ってきました。

リゼ「誰かいるのか!」

 リゼさんは、いつの間に取り出したのか銃口をこちらに向けて植木の中を覗き込もうとしています。
 
千夜「どうしよう、バレちゃうわ!」

 千夜さんは、声を潜めながらも切羽詰まった口調で言いました。

ココア「なんとかごまかさないと……」

マヤ「チノが何とかしてよー!チノが音を立てたから気づかれたんだしさー」

チノ「そう言われても……それにもとはといえばマヤさんが……」

メグ「誰のせいとか言ってる場合じゃないよ~。そっ、そうだ!ウサギの真似でごまかせないかな?」

千夜「その手があったわ……チノちゃん」

チノ「なんでわたしなんですか!?というかウサギの真似って何です?」

メグ「まずいよ、早くしないとっ」

 確かにメグさんの言う通りです。リゼさんの顔はいよいよ植木にせまり、銃口はすでに植木の隙間からこちらを正確に狙っています。

チノ「分かりました……」

 とはいっても、ウサギの真似なんてどうすれば?いえ、迷っている暇はありません。とにかく思いつくままにやらないと!

「ぴょ……ぴょんぴょん」

 ……くっ、屈辱です。というか、これはやってしまったのではないでしょうか?ウサギはそんな鳴き方しませんし、バレないはずがありません。焦りが募って、冷や汗がだらだら垂れてきます。

リゼ「なんだ、ウサギか」

 ところが、リゼさんは何とかだまされてくれたようで、ほっと一息ついてから銃をしまい植木から離れていきました。本当にウサギだと信じてくれたのはびっくりですが、とにかく一安心です。みんな一斉に安堵のため息をつきました。
 
 リゼさんがシャロさんのところに向かうと、シャロさんはゆっくりと顔を上げました。こちらからはシャロさんの表情までは見えませんが、緊張のせいでしょう、何となく動きがぎこちなく見えました。シャロさん、がんばってください!
 
 リゼさんはシャロさんと二言三言なにか言葉を交わした後、シャロさんの隣に座りました。話の途中でリゼさんがこちらの方を指さしたのでわたしたちは一瞬心臓が止まりそうになりましたが、隠れていることはバレていないはずです。多分……。
 
千夜「やっぱり、二人ってお似合いよね♪」

 ふと、千夜さんがそんな言葉を漏らしました。これ以上無いくらいにおあつらえ向きな夕焼け空の下、ベンチに並んで座る二人の影が長く伸びています。その影は、まるで影絵のようにきれいでした。
 
 しばらくすると、シャロさんはカバンの中から何かを取り出しました。いよいよです!
 
ココア「あれ?」

 しかし、取り出したものを見てココアさんが声を上げました。
 
チノ「どうしたんですかココアさん?」

ココア「昨日シャロちゃんがマカロンを入れてた箱と違う」

チノ「言われてみれば……」

 どういうことでしょう。

千夜「ああ、あれはリゼちゃんへの誕生日プレゼントよ。バレンタインのお菓子とは別に用意してたの」

 なるほど。それなら納得です。

ココア「何が入ってるのかな?」

千夜「『リゼ先輩に似合いそうなティーカップを見つけた』って言ってたから、多分それじゃないかしら」

ココア「そうなんだ!わたしも欲しいなぁ」

 ここからはリゼさんとシャロさんの会話のやりとりは聞こえません。ですが、きっとこんなやりとりが行われているのでしょう。

シャロ『リゼ先輩……、誕生日おめでとうございますっ』

リゼ『ありがとう、開けてもいいか?』

シャロ『はい!』

 リゼさんは、大事そうに箱を包んでいたリボンを解いて中身を取り出しました。中身は……千夜さんの言う通りでした。ティーカップです。
 
 リゼさんは、しばらくティーカップをいろんな角度からじっくり眺めていましたが、やがて丁寧に箱に戻して、それからその箱をカバンの中にしまおうとしました。ですが、箱を入れるスペースが無かったのでしょう。リゼさんはカバンの中身の整理にかかりました。
 
 その時です。突風がいてきて、カバンの中からハラりと一枚の紙が舞いました。とっさにシャロさんが立ち上がって、ぱっとその紙をつかみ取ります。ここからでは紙の内容は見えません。ですが、シャロさんはその紙を見て一瞬固まったように見えました。
 
 リゼさんは、シャロさんから紙を受け取ってまたカバンの中に戻そうとしました。しかし、シャロさんはリゼさんに紙を渡そうとしません。どうも、紙に書いてある内容についてリゼさんに尋ねたいようです。きっと、やりとりとしてはこんな感じでしょう。

リゼ『紙拾ってくれてありがとな』

シャロ『……』

リゼ『どうしたんだシャロ?』

シャロ『いえ、ちょっとこの紙に書いてあることが気になって……』

リゼ『ああ、それは――』
 
 リゼさんは二言三言説明している様子でしたが、シャロさんはそれで納得したようで、紙をリゼさんに返しました。

マヤ「ねえねえ、あれってもしかしてリゼからシャロへのラブレターじゃない?」

 マヤさんがひそひそと、でも弾んだ声でそんなことを言い出しました。
 
ココア「告白しようと思ったら逆にされちゃったってこと!?」

メグ「そうなのかな?それだったら素敵だよね~!」

 それを聞いたココアさん、メグさんも一緒に盛り上がります。わたしも、内心そうだったらいいなと思いました。ですが……。

チノ「それだったら、その紙をシャロさんに渡さないでもう一度カバンにしまったのはおかしくないですか?」

マヤ「そうかなー。恥ずかしくて返してもらったんじゃないの?」

ココア「きっとそうだよ!」

 まったく、ずいぶん楽観的な人たちです。一方で、千夜さんの方を見るといつになく真剣な目でシャロさんたちの様子をうかがっていました。驚いてわたしもシャロさんたちの方に視線を戻すと、今度はリゼさんが何か小さな箱を取り出してシャロさんに手渡そうとしているところでした。

メグ「あっ、リゼさんがバレンタインのチョコ渡そうとしてるよ!」

マヤ「やっぱり告白だ!」

 この人たちはいわゆる友チョコという可能性は考えないのでしょうか……。

 異変が起きたのはその次でした。シャロさんがいきなり立ち上がって、リゼさんに背を向けてそのまま駆け出して行ったのです。リゼさんは、とっさに追いすがろうとしてシャロさんの方へ手を伸ばしました。でも、その手は虚しく空を切っただけでした。

 一体何が起きたのかは分かりません。それはリゼさんも同じだったようで、渡すはずだった小箱を片手に持ったままシャロさんの去って行った方をただ茫然と見つめています。
 
千夜「行きましょう」

 千夜さんが鋭い声で言いました。こんなに張り詰めた千夜さんの声を聞いたのは初めてだったかも知れません。わたしたちの思いは同じでした。これはただことじゃない。わたしたちは一斉に植木の陰から飛び出して、リゼさんの方へ駆け出しました。

Part 04に続く

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