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歩くんですの箱 SS置き場

躍動感を表現するにはどうすればいいんだろう……と日々考え中。

【ごちうさSS】記憶よ、もう一度 - Part 02

Part 02

 【2】

 バレンタインの当日はシャロさんのために取っておき、リゼさんの誕生日パーティは翌日、学校が終わった後にラビットハウスで行うことになりました。その旨をリゼさんに伝えるとき、

リゼ「そっか……私の誕生日ってバレンタインデーだもんな。みんな忙しいよな」

と少し寂しそうにしていたので心苦しかったのですが、リゼさんとシャロさんのためだと思い何食わぬ風を装って

チノ「いえ、たまたま皆さんの用事が重なっただけだと思います」

と答えるしかありませんでした。

 そして、迎えたバレンタインの前日。

 シャロさんは甘兎庵の厨房を借りてリゼさんに渡すお菓子を作ることになりました。千夜ちゃんのおばあちゃんは気前よく貸してくれると言って下さいました。うちのおじいちゃんとは昔からの因縁があって仲が悪い様ですが、こうしてみると良いおばあちゃんです。

千夜「チノちゃんいらっしゃい。あら?マヤちゃんとメグちゃんもいるのね、よく来てくれたわ♪」

チノ「わたしがちょっとだけ話をしたら、興味があるって言ってついてきたんです」

マヤ「来たよー。あっ、あんこだー。久しぶりー」

 マヤさんは、甘兎庵のマスコットになっているウサギの姿を見るなり飛びついて、つんつんとつつき始めました。

マヤ「ホントに動かないなー、ほれほれ」

 まったく……マヤさんはもう少し落ち着きをもって行動してもいいと思います。

メグ「ごめんくださーい」

 一方のメグさんは、丁寧にお辞儀をしながら店内に入りました。同じ中学生でも、こうも差が出るものなのでしょうか。

マヤ「うわあっ!?」

チノ「どうしたんですかマヤさん、いきなり大声を出して」

マヤ「あんこが消えたんだよ!いきなり!」

チノ「ああ……」

 なるほど。お店の入り口の方を振り返ると、案の定ティッピーがあんこに追いかけられて逃げていくのが見えました。

マヤ「何あれ?神隠し!?超能力!!?」

 夢想科学に目を輝かせているマヤさんをよそに厨房に向かうと、シャロさんはすでにチョコレートの準備に取り掛かっていました。
 
チノ「お騒がせしてすみません」

シャロ「そんなことより聞いてよチノちゃん!」

 あれ、今日のシャロさんはずいぶんテンションが高いみたいです。コーヒーで酔っているわけでもなさそうですし、好きな人にあげるためのお菓子を作るということで相当張り切っているのでしょう。

シャロ「ほら、すっごく香りが良いでしょうこのチョコレート!バイトで貯めたお小遣い使い切って奮発したんだから!」

 確かに、お湯の中に浸したボールの中で溶かされているチョコレートからは格別な香りが立ち上っています。

チノ「確かに高級な香りがします」

シャロ「でしょう?チノちゃんなら分かるわよね!」

 シャロさんは、普段の姿からは想像がつかないくらい声を弾ませながら言いました。あんまりに楽しそうなので、こちらからもらしくない冗談を仕掛けさせていただくことにします。

チノ「そのチョコ……ちょこっとだけ舐めさせてください」

シャロ「チョコだけにぃ?」

 良かった……柄にもなくギャグを言ってしまったので内心ひやひやしていたのですが、シャロさんはいたずらっぽい笑みを浮かべてノッてくれました。

チノ「そう、チョコだけに、です」

 わたしがあえて真面目な顔をつくって切り返すと、シャロさんは

シャロ「ぷっ、あははっ」

と吹き出しました。わたしもつられて笑いました。ついでにチョコレートを舐めさせてくれるかと思いましたが、

シャロ「でもだめよ、これは特別なんだから♪」

と言われてしまいました。シャロさんもわたしも、また笑いました。

ココア「なんだか楽しそうだね」

 二人で笑いあっていると、遅れてきたココアさんが厨房の方に顔を出してきました。

ココア「あっ、すっごくいい匂い!お願いシャロちゃん、ちょっとだけ舐めさせてよ~」

チノ「ダメです」

 わたしは、ボウルに手を伸ばそうとするココアさんの手を掴んで言いました。

ココア「なんでチノちゃんが決めるのー?」

 ココアさんは口をとがらせて不満を訴えましたが、わたしの方も有無を言わせません。

チノ「なんでもです」

シャロ「さっきチノちゃんからも『舐めさせて』って頼まれんだけど断ったの。それで拗ねちゃったんじゃないかしら?」

 相変わらずいたずらっぽい口調でシャロさんが付け加えました。

ココア「そうなの?シャロちゃん」

 ココアさんは、最初から咲かせていた笑顔をさらに満開にしてわたしの顔を覗き込んできました。

チノ「そんなわけないじゃないですか。ココアさんじゃないんですから」

 そして、わたしたちは誰からともなく笑いだしました。

 * * *

 シャロさんは、作業の手際は本当に本当に良くて、次から次へてきぱきと作業を進めていました。手伝えることがあれば手伝おうかとも思ったのですが、この分だと逆に邪魔するだけになってしまいそうです。喫茶店の娘として、わたしももっと精進しないといけません。
 
チノ「クッキーを作れるのは知っていましたけど、マカロンまで作れるんですね」

シャロ「そんなに難しくないし、おしゃれに出来るからなかなかおすすめよ」

 シャロさんは、卵白を泡立ててきめ細かくて真っ白なメレンゲを作りながら言いました。わたしから見れば、こんなに綺麗なメレンゲを泡立てるだけでも骨が折れそうです。
 
 続いてシャロさんは、生地に使うアーモンドプードルという粉末をふるいにかけ始めました。どうやら、アーモンドを細かく砕いたもののようです。

チノ「小麦粉は使わないんですね」

 洋菓子の生地には大体使われるものだと思っていたのですが。

シャロ「小麦粉でも出来なくはないんだけど、ちゃんと作るならこっちね」

 アーモンドプードルに粉砂糖とココアパウダーをまぶして均一にふるった後、シャロさんはその粉をメレンゲの中に入れました。

 シャロさんの手つきはさくさくと軽快ながらも、丹精の込められた丁寧なものでした。よく、料理には作った人の想いが込められる、なんて言いますが、その想いはきめ細やかな作業工程という形となって現れるのだと思います。

シャロ「これくらいで良いかしら」

 そう言ってシャロさんは、生地を絞り袋の中に流し込み始めました。

シャロ「チノちゃん、悪いんだけど、クッキングシート敷いてくれる?」

 喜んで。来ないと思っていたわたしの出番が舞い込んできました。仕事自体は誰でも出来るような簡単なことですけど、それでもこんなにお菓子作りが上手な人のお役に立てると思うと嬉しいものです。

チノ「はい、敷きました」

シャロ「ありがと♪」

 シャロさんは、鼻歌を歌いながらクッキングシートの上に生地を円形になるように絞り出していきました。瞬く間に、クッキングシートの上に円形の生地がずらりと並んでいきます。

チノ「けっこう沢山ありますね」

シャロ「マカロンは2つ1組にするから、なるべくサイズが近いものを対にした方が良いの。だから、余分に作っておくと安心よ」

 なるほど、勉強になります。
 
シャロ「まあ……わたしも普段ならそこまで気にしないんだけどね」

 わたしがただただ感心していると、シャロさんはちょっと照れたように付け加えました。
 
シャロ「余った分は皆にあげるわ」

チノ「いいんですか?」

シャロ「もちろん。手伝ってくれたんだし」

 ほとんど何もしてませんけどね。

シャロ「それに、味見役も必要よ♪」

 なるほど、一理あります。

 マカロンの生地は、1時間ほど空気に晒して乾燥させる必要があるようです。その間、やることが無くなったわたしたちは一度厨房を出て、皆さんの座っている席の方に合流しました。

マヤ「もう終わったの?」

シャロ「いや、ちょっと時間をおいて生地を乾かさないといけないのよ」

マヤ「へー、結構面倒くいんだなー」

チノ「マヤさんは待つのが苦手そうですもんね」

マヤ「だってじれったいじゃん。ちゃっちゃかやりたいよー」

 マヤさんにはお菓子作りは向いていなさそうです。

千夜「どう?上手くいってるかしら?」

シャロ「ええ。順調よ」

ココア「いいなー♪後でわたしにも食べさせてよー」

シャロ「ちょっとだけね」

ココア「わーい、やったやったー!マ・カ・ロ・ン♪マ・カ・ロ・ン♪」

 ココアさん……今時、小学生でもそんなステレオタイプな喜び方しませんよ。というか、今日何のために集まったのか忘れてませんよね?

メグ「ところで、今日って何のために集まったんだっけ?」

 メグさん、ナイスアシストです!

ココア「うむ、よくぞ聞いてくれた。今日みんなに集まってもらったのは他でもない、えっと……なんだっけ?」

 本当に忘れていた!

千夜「シャロちゃんのお菓子を試食するためじゃない?」

ココア「そう、それだよ!」

チノ「じゃないでしょう!……もう、しっかりしてください」

ココア「あれ、違った?」

チノ「千夜さんも適当なこと言わないでください」

 わたしが千夜さんに追及の視線を向けると、千夜さんはどこ吹く風というように口笛を吹いて目をそらしました。千夜さん、あえてとぼけて遊んでますね。

チノ「はぁ……明日シャロさんの告白が上手くいくように作戦会議をするんじゃなかったんですか?」

 誰も言ってくれそうにないのでわたしが今日の目的を言うと、ココアさんは慌ててわたしを指さしました。

ココア「はっ、そうだった!そんな大事なこと忘れちゃダメだよチノちゃん」

 失敗したのは自分なのに、相変わらずお姉さん風を吹かせるのを忘れないココアさんでした。

 * * *

ココア「それでは、『シャロちゃん告白大作戦』第二次作戦会議を始めます!」

 さっきまでのグダグダなど何も無かったかのように、ココアさんは前回に引き続き威勢よくコールを掛けました。

マヤ「わたしたち何も知らないんだけど、とりあえず今日は何を決めるのー?」

ココア「いい質問だね!チノちゃん、答えてあげて」

チノ「なんでわたし……まあいいでしょう」

 明日のバレンタインにシャロさんがリゼさんにチョコレートを渡して想いを伝えること。わたしたちはその後押しをするため、少しでもシャロさんを勇気づけようとこうして集まっていること。今日は告白までの細かい段取りを相談するために集まったこと。これだけ話せばだいたい伝わるでしょうか。

千夜「前回、告白する場所は公園のベンチって話が出たんだけど、それで良いかしら?」

ココア「時間は夕方。青山さんも言ってたけど、やっぱり夕日の下で……っていうのが最高だよね!」

メグ「わぁ、なんだかロマンチック~♪」

マヤ「ねぇねぇ、告白するときのセリフはどうするのー?」

シャロ「セリフ?え、えとえと……」

 皆さん、思い思いの意見を言い合って、話し合いは順調に進んでいきました。シャロさんの告白が上手くいって欲しいという皆さんの想いが少しずつ形になっていくようでした。

 そんなこんなで、あっという間に1時間ほどの時間が経ちました。

シャロ「そういえば、そろそろ生地が乾燥した頃ね。千夜、オーブンを予熱しておいてくれない?」

 シャロさんのマカロンの方もいよいよ佳境。クッキングシートの上に並べたマカロンをオーブンで焼き始めると、甘兎庵はすぐに甘い香りに包まれ始めました。

 15分ほど経って、焼きあがったマカロンをオーブンから取り出すと、生地はほどよいサクサク感と艶を感じさせる見た目に変わっていました。とても美味しそうです。

シャロ「上手く焼きあがったわね」

 シャロさんも納得の出来のようです。

 最後に、別に用意したチョコレートのクリーム(ガナッシュと言うらしいです)を挟んで2つ1組に組み合わせて完成。シャロさんは、同じくらいの大きさに焼きあがった2つが対になるように慎重により分けながら作業を進めていました。クッキングシートの上には、対になれずに残ってしまった生地がそのまま乗っています。

シャロ「だいたいこんなもんかしら」

チノ「残りはどうするんですか?」

シャロ「そうね……チノちゃんやってみる?」

チノ「やってみるって、何をですか?」

シャロ「今わたしがやってたみたいに、クリームをつけて組み合わせるの。私たちで食べる用にしましょう」

チノ「いいんですか!?」

 いつも冷静沈着なわたしですが、思わず声が弾んでしまいます。

 生地の裏側にクリームを塗って、もう一つの生地を上から載せるだけなのでやること自体は簡単です。でも、自分の手でマカロンが形になっていくのがなんだか楽しくて、夢中になって続けていたらあっという間に終わってしまいました。

シャロ「チノちゃんお疲れさま」

チノ「シャロさんこそお疲れ様です」

 最後にわたしは、組み立てたマカロンをお皿に乗せて皆さんのいるテーブルに持っていきました。

チノ「これは皆さんで食べる分だそうです」

ココア「ホントにー、やったやったー!」

 ココアさん、踊りだしそうな勢いなんですけど。
 
マヤ「うわー、おいしそー!」

メグ「なんだかいい匂いがするよー」

 一方、シャロさんは厨房に残って、事前に用意したというオシャレな箱にリゼさんに渡すマカロンを詰める作業をしていました。

シャロ「うーん、こうじゃない……。こう向きに入れた方が綺麗に見えるかしら……?」

 シャロさんは、繰り返し繰り返し、一度入れてみてはじっくり考えて、また入れ直していました。邪魔してはいけないのでわたしは先に皆さんのところに戻っておくことにします。

ココア「チノちゃん、あーん」

チノ「なんですかココアさん!?」

 席に戻るなり、ココアさんがマカロンをわたしの口元に押し付けてきました。

ココア「すっごく美味しいよ!ほらほら食べてみて!」

チノ「わっ、わかりました……。はむっ」

 マカロンが口の中に入る瞬間、ココアさんの指先が一瞬唇に触れた気がしました。

 サクサク。心地よい歯ごたえとほんのりと口に広がる甘み。そして、鼻腔をくすぐるチョコレートの香り。うん、これは間違いなくリゼさんも喜ぶ味です。後でシャロさんにも伝えておきましょう。

ココア「ね、美味しいでしょ?」

 間違いありません。けれど、またです。なんでしょう?なぜこんなにも心臓がドキドキするのでしょうか……?

 * * *

 いつの間にか外は真っ暗になり、作戦会議はお開きとなりました。

シャロ「ホントは、ついさっきまで迷ってた。やっぱり告白するのは止めておいた方が良いんじゃないか……って。だけど、みんながいてくれたから勇気を出してみようかなって、変わろうって思えたわ」

シャロ「だから……ありがとう、みんな」

ココア「気が早いなぁシャロちゃん。お礼は、ぜんぶ上手く行ってからだよ」

シャロ「……そうね。わたし、頑張るわ」

ココア「うん、応援してるよ」

千夜「わたしもよ。友達としても、幼馴染としてもね」

 ココアさんの一言を皮切りに、シャロさんへの温かい言葉が次々と飛び出しました。

メグ「私たちも応援してます」

マヤ「後でたっぷり話聞かせてよー」

チノ「いい報告待ってます」

シャロ「みんな……」

 シャロさんは目を潤ませつつも、その表情からは迷いのない晴れやかな笑みがこぼれていました。
 
 明日は綺麗な夕日が見えますように。わたしは、後で照る照る坊主を作ろうと決めました。

Part 03に続く

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